研究課題
気孔細胞は葉緑体を持っているが、その機能や形成メカニズムについては、不明な点が多い。gles1(green less stomata 1)は気孔葉緑体形成変異体であり、CO2に対する気孔応答性が低下している変異体である。この変異体では、気孔閉鎖を駆動するS型陰イオンチャネル(SLAC1)の活性も低下していた。気孔葉緑体が、気孔開閉メカニズムにおいて、重要な役割を果たしていることが示唆されたが、どのように孔辺細胞内のイオンバランス制御に関わっているのか、その仕組みは不明である。そこで、SLAC1の制御因子の一つであるカルシウムイオンに着目して、孔辺細胞におけるカルシウムイオンの濃度変化を測定した。その結果、CO2処理により、一過的なカルシウムイオンピークが出現したが、その出現頻度及び変化率はgles1変異による影響を受けなかった。気孔葉緑体は、カルシウムシグナルとは異なるメカニズムでSLAC1の活性制御に関与すると考えられる。またgles1の原因遺伝子は葉緑体包膜に存在し、葉緑体へ脂質を輸送する複合体のサブユニットの一部をコードしていた。そこで、この複合体が気孔葉緑体形成に関与しているのか明らかにするため、他のサブユニットの変異体を用いて気孔葉緑体の自家蛍光及びCO2に対する応答性を調べた。その結果、他のサブユニットに変異を持つ植物も、gles1と同様に、気孔葉緑体形成に異常があり、CO2に対する応答も低下していた。気孔の葉緑体形成において葉緑体の脂質輸送体が重要な役割を果たしていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
気孔の葉緑体はカルシウム非依存の経路を介して、S型陰イオンチャネルの活性制御に関与していることが分かった。またgles1変異体の原因遺伝子の解析から、気孔の葉緑体形成に葉緑体の脂質輸送体が関与するという新しい知見を得ることができた。
gles1変異体は、気孔細胞の葉緑体の形成が阻害されているが、葉肉細胞の葉緑体は正常であった。つまり細胞によって葉緑体形成メカニズムが異なると考えられる。この葉緑体形成の組織特異性を決定する要因の一つが、葉緑体における脂質組成の違いかもしれない。その可能性を検証するため、気孔細胞及び葉肉細胞の脂質プロファイリングをおこなう予定である。
遺伝子工学試薬など物品費の使用額が当初の予定よりも少なく済んだため。
次年度で、細胞をプロトプラスト化する試薬や脂質解析用の試薬を使った実験を多数計画しているので、その実験にあてる予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Frontiers in Plant Science
巻: 未定 ページ: 未定
J. Exp. Bot.
巻: 67 ページ: 3251-3261
https://doi.org/10.1093/jxb/erw134
http://www.biology.kyushu-u.ac.jp/~plant/