研究課題/領域番号 |
15K18560
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研究機関 | 名古屋経済大学 |
研究代表者 |
古市 卓也 名古屋経済大学, 人間生活科学部管理栄養学科, 准教授 (80436998)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞シグナル / ストレス応答 / 活性酸素種 / ROS / カルシウムシグナル |
研究実績の概要 |
カルシウムシグナル、ROSシグナルはいずれも、細胞応答の初発段階に位置する情報伝達経路であり、特に植物の病原菌感染応答においては相互活性化、すなわちクロストークを行っていることが強く示唆されている。本課題では、我々が新たに細胞質特異的ROSプローブとして実用化したROSレポーター発光タンパク質・フォラシン、産学連携によって新規開発した発光2波長同時計測装置を用いることで、カルシウムシグナル、ROSシグナルの非侵襲的同時リアルタイム計測を行い、その分子機構を解明することを目指し、研究を行っている。 本年度の研究では、フォラシン遺伝子を導入したタバコ培養細胞株について高発現株を選抜し、液体培養への順化および発光基質の取り込みによる発光タンパク質の生体内再構成条件の最適化を行ったのち、病原菌感染ストレス、植物ホルモン、環境ストレスなど、これまでにカルシウムシグナルの動因が確認されているものを中心に複数種の刺激応答について計測を行ったところ、その大半において、カルシウムシグナルと共にROSシグナルが動因されることが確認された。 さらにエクオリン導入株によって計測されるカルシウムシグナルとのタイムスケール比較、パターン比較からクロストークの順序を類推し、薬理学的手法による予備的検証を行った結果、カルシウムシグナルの阻害によりROSシグナルが抑制されるケース、これと逆方向にROSシグナルの阻害によりカルシウムシグナルが抑制されるケースのほか、両シグナルが独立して動因されるケースも見られ、カルシウム-ROSクロストークの多様性について、新たな展開につながる、多くの情報を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究においては新たな所属機関において行った遺伝子組換え実験安全委員会の設置および関連手続き等に当初想定を大幅に上回る期間を要したことに伴い、遺伝子組換え実験に該当するシロイヌナズナ植物体および大腸菌・酵母の育成、及びこれらを用いた研究開発において、大幅な遅延が生じた。そのため、高感度および局在化プローブの植物体・培養細胞への適用、イメージングという点においては、遅延が生じている。 一方、遺伝子組換え実験に該当しないタバコ培養細胞を用いた実験については代償的にその範囲を当初計画よりも拡大し、全期間を通じて集中的に研究を推進することで、当初計画以上の成果を得ることが出来た。シロイヌナズナと共通する現象についても基礎的知見が得られており、既存試料を用いた次年度の研究においては、加速化と新展開が期待出来る。
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今後の研究の推進方策 |
タバコ培養細胞を用いた計測系では、試験した刺激種の半数以上でクロストークの可能性が見出されており、継続してさらに詳細な検証を行うことで、植物細胞におけるCa2+-ROSネットワークの役割解明に向けて大きな貢献ができるものと期待される。 シロイヌナズナ植物体を用いた計測系においては、Ca2+-ROSネットワークの研究が最も進んでいるflg22に対する応答を中心に解析する。また、我々の研究グループが現在注力しており、新たなメカニズムが明らかになりつつある浸透圧・重力などの機械・物理刺激応答におけるCa2+-ROSネットワークの役割、酵母や動物細胞との共通性について、検証と解析を行う予定である。 計測系感度向上に向けたキメラタンパク質の開発においては、大腸菌・酵母発現系での最適化ののち、植物個体、培養細胞への導入を進める。また、フォラシンの発光メカニズムを明らかにすることが極めて有益であることから、他大学との共同研究により、結晶構造解析に向けた準備を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子組換え実験安全委員会の設置および実験承認に当初想定を大幅に上回る期間を要し、遺伝子組換え実験の実施期間が年度後半に圧縮されたため、シロイヌナズナ植物体および大腸菌・酵母を用いた研究の大半が、遺伝子導入や高発現株の選抜などの基礎的段階に留まった。このことにより、最も費用を要する遺伝子工学的研究の実施期間が大幅に短縮された。また、タバコ培養細胞について代償的に拡大して行った研究では、その多くを既存の試薬などを用いて行うことが可能であったため、追加の費用は生じなかった。 本年度の論文執筆では他課題で得られた研究成果に基づいた論文の執筆および投稿を先行して行わなければならない状況が生じたため、本課題に関連する論文が年度内の掲載に至っていない。 これらの事由により、本年度においては当初予算と比して、実支出額が抑制される結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究においてはシロイヌナズナ植物体を用いた研究が本格的に開始し、遺伝子発現解析など費用を要する実験が行われることから、これに対して重点的に予算を配分する。また、次年度には遅延分を含めて多数の新規組換え体作成を計画していることから、予算状況および所属機関における栽培環境、研究の進捗確保を総合的に勘案し、外部委託の可能性についても柔軟に検討する。さらに助成最終年度であることから、論文、国際会議などでの成果公表についても、精力的に実施する予定である。
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