研究課題
光合成生物は、効率よく光を集めて光合成を行うために様々なアンテナタンパク質(=集光装置)を進化させてきた。中でも集光アンテナ複合体(LHC)は、十億年程前に葉緑体が誕生した後で初めて獲得された真核生物特異的タンパク質であるが、これまで主に多数の重複LHC遺伝子を持つ緑色植物でのみ機能解析が行われてきたため、祖先葉緑体おけるLHCが元々どのような機能を持っていたのか、集光機能がいつ誕生したのかについては謎のままであった。そこで、LHCを3つしか持たない原始紅藻の遺伝子破壊株を用いて、紅藻におけるLHCの真の機能を実験的に示し、全ての葉緑体に共通する集光機能の起源と進化を解明することを目的に研究を行った。まず、始原的紅藻Cyanidioschyzon merolaeのLHC変異体の作成を試みたところ、全てのLHCを欠損した完全変異体を作出することに成功した。このことは、通常培養条件ではLHCは紅藻の生育に必須ではないことを示しており、紅藻葉緑体にはシアノバクテリアと同様のフィコビリソームと呼ばれる原核生物型集光アンテナ装置が保存されているという事実とも合致する。また、様々な生育条件で変異株の表現型を解析したところ、ある種の環境条件では変異株が野生株に比べ極端に低い生育率を示すことが明らかになった。この結果は、緑色植物以外でのLHCの機能に関する初めての報告であり、葉緑体進化の過程で、原核生物型の光合成装置から真核生物型の新システムへの革新的変遷の鍵を握る集光システムの進化を考える上で重要な知見である。
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Nature
巻: 537 ページ: 563-566
10.1038/nature19358
http://www.lifesci.tohoku.ac.jp/research_ja/45268/