研究課題/領域番号 |
15K18563
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
高橋 史憲 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (00462698)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 環境応答 / 植物ホルモン |
研究実績の概要 |
本年度は、ペプチドによるSnRK2タンパク質の活性化制御に関して、主に研究を進めた。ペプチドのRNAi抑制変異体を作成し、浸透圧ストレス時のSnRK2の活性化に関して、ゲル内リン酸化法を用いて解析を行った。SnRK2は、浸透圧処理後1分から10分以内の早い段階で、タンパク質のリン酸化を介した活性化が起こる。しかし、ペプチド抑制変異体を用いた解析から、この早いSnRK2の活性化が抑制されていることを明らかにした。この結果は標的ペプチドが、SnRK2の上流で機能していることを示すだけでなく、細胞内でおこる素早いリン酸化シグナル伝達系も制御していることを示す重要な結果を得たことになる。一方、SnRK2は10遺伝子からなるファミリーを形成し、サブクラスIとIIが浸透圧応答、サブクラスIIIがアブシジン酸(ABA)応答に関わる事が示されている。今回の実験から、ペプチドは全てのSnRK2の活性を制御することが示唆されたことから、ペプチド-SnRK2sモジュールは、細胞内での浸透圧応答における、非常に初期で上流の制御因子群であるという重要な知見となる結果を得ることができた。 また、これまでに浸透圧ストレスをSnRK2に伝え、活性化をONにする分子メカニズムは全く分かっていない。本年度は、さらに、ペプチドに結合する相互作用因子の同定も行った。まずはじめに、ペプチドとSnRK2との結合を検証したが、両者の直接的な結合作用を見いだすことはできなかった。そこで、ハブ因子を介したペプチドとの相互作用に関して、研究を進めていくこととした。スクリーニングに関しては、現在進行中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ペプチドによるSnRK2の活性化制御に関して、重要な知見を得ることができ、順調に解析を進めることができた。特に、10個あるSnRK2ファミリーの全ての活性を、ペプチドが制御することを明らかにすることができ、ペプチド-SnRK2sモジュールが、細胞内での浸透圧応答における、非常に初期で上流の制御因子群であるという重要な知見を得ることができたことが大きな成果といえる。 また、生化学的解析の準備となるペプチドの遺伝子抑制変異体を迅速に作成したことも、初年度において研究成果を上げることができた一因である。現在は、恒常的発現プロモーターを使った過剰発現体だけでなく、ペプチド遺伝子自身のプロモーターをタンデムにつなげた過剰発現体も作出中である。28年度には、これらの植物体を使って解析を進めることができる予定である。また、ペプチド遺伝子のプロモーターにGUSレポーターを連結させた形質転換植物体も作成中である。これにより次年度以降に、ペプチドが発現し、作用する植物体内の組織局在性に関しても、解析し議論することができ、より詳細な浸透圧ストレスの感知メカニズムを明らかにできると期待している。 さらに今年度は、ペプチドに結合する相互作用因子の同定に関しても、解析を進めることができた。ペプチドはSnRK2の活性化を制御するが、これはペプチドがSnRK2に直接結合して制御するのではなく、ハブ因子を介して制御している可能性を考察することができた。現在は、ペプチドと結合する相互作用因子の同定に向けて、スクリーニング系を立ち上げ解析を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、ペプチドと結合する相互作用因子の同定を主軸に解析を進める予定である。スクリーニングには、酵母を使ったYeast-Two hybrid法の他にも、タンパク質の局在性やストレス応答に対する遺伝子発現パターン、組織局在性の特徴など、オミックスデータ解析ツールを組み合わせて、効率的にスクリーニングを進める。得られた候補因子に関しては、特異的抗体などを作成し、丁寧なin vivoでの機能解析を行う。 また着目しているペプチドは、浸透圧ストレス依存的に細胞外に放出される。しかし、ペプチド蓄積量はいまだ不明である。ペプチドの生理活性力が、タンパク質の量に依存するのか、活性力価に依存するのかを調べる必要がある。高感度質量分析計で測定可能となるMultiple Reaction Monitoring(MRM)法を用いて、蓄積するペプチドを定量する。無処理サンプルとストレス処理サンプルを用いて比較解析を行い、ストレス依存的に細胞外に蓄積するペプチドを定量する。 さらにペプチドおよび相互作用因子の組織特異的発現に関して、現在準備しているトランスジェニック植物体を用いて解析する。植物が、着目しているペプチド-SnRK2sモジュールを使って、どの組織で浸透圧ストレスを感知し、細胞内に伝達しているのかを明らかにするのは、本研究課題において重要な実験である。茎や葉の維管束や、維管束柔組織での発現を特に詳細に解析する。観察にはGUS染色法や蛍光顕微鏡を用いたGFP蛍光を指標に、植物体での部位・組織の特定を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究の推進度は概ね順調であるものの、浸透圧ストレス依存的に細胞外に放出されるペプチドの定量解析については、高感度質量分析計を使った詳細な解析を次年度に行うことにした。そのため、解析に必要となる分析・分離カラムの購入時期をずらすこととなり、次年度使用額が生じることととなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究計画の中に、高感度質量分析計を使ったペプチドの定量実験を計画したので、次年度使用額をこの実験の遂行に必要な分析・分離カラムなどの購入に使用する計画である。
|