研究課題
(1)私はこれまでの研究によって、シロイヌナズナのヒストン修飾酵素であるPRC2の機能欠損体において最終分化細胞である根毛細胞が分裂再開し、脱分化・胚を形成することを発見した。さらにPRC2の標的遺伝子としてWIND3, LEC2といった細胞リプログラミングを引き起こす能力を持つ転写因子をコードする遺伝子があることを見出し、PRC2はこれらの不必要な発現を防ぐことによって細胞の分化状態を維持していることが分かった。今年度は、本研究成果を原著論文として発表することができた。また、細胞分化のエピジェネティック制御に関する最新の知見を概観して総説として発表し、学会のシンポジウムで招待講演を行うなど活発に成果発表を行った。(2)これまでの観察結果から、PRC2は細胞分化の進行には必要ないものの分化完了後の状態を維持する機能を持つことが考えられた。そこで、PRC2が必要な発生段階を明らかにするため、発生段階特異的なプロモーターを用いてPRC2変異体に対する相補実験を行った。分化過程と分化完了後のどちらか一方でのみ活性をもつプロモーターのいずれの場合であっても表現型を相補するという予備的な結果が得られており、現在確認実験を進めている。(3)シロイヌナズナのPRC2変異体で見られたような最終分化細胞が分裂し脱分化する現象が自然界(野生型)の植物でも起こるのではないかと考えて文献調査を行い、イワタバコ科植物の成熟葉の表皮細胞が分裂して茎頂メリステムを構築する現象を見出した。さらに、様々な植物が示す再生現象の多様性および再生の分子制御メカニズムについて概観した総説を発表した。
2: おおむね順調に進展している
原著論文を発表することができ、さらには掲載誌の表紙に採択されNews&Views でハイライトされるなど大きな反響をもたらすことができた。また2本の総説を発表するとともに、総説執筆時の文献調査に基づいて様々な実験系を実際に試すことによって「最終分化細胞が分裂する」新たな実験系を構築することができ、これらは予想以上の成果であると言える。一方でPRC2変異体で最終分化細胞が細胞分裂する理由の解明については当初の計画よりも遅れており、それらを総合的に判断したため。
PRC2を発生段階特異的なプロモーターで相補する実験の表現型評価を進め、これまでに得られている予備的な実験結果のさらなる検証を行う。また、細胞分裂制御因子の過剰発現体作出を進め、PRC2機能欠損体で見られたような根毛細胞の分裂を引き起こすことができるかどうかについて検討する。上記の研究プロジェクトに加え、今後はイワタバコ科植物の成熟葉の最終分化した表皮細胞が分裂してメリステムを構築する実験系と、二本立てて研究を進めることとする。
PRC2変異体を用いたRNAseq解析を行うための予算を計上していたが、実験開始前の条件検討に時間が掛かり、次年度に持ち越したため。
RNAseq解析は新しいライブラリ調製法を用いて安価で行えるようになったため、その分の予算で植物培養用の機材や観察用の顕微鏡購入を検討している。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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