研究課題/領域番号 |
15K18565
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岩瀬 哲 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (40553764)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分化全能性 / 脱分化 / 再分化 / カルス / 転写因子 / 傷害応答 / 組織培養 / 細胞リプログラミング |
研究実績の概要 |
傷害ストレスによって誘発される植物のカルス形成と、引き続いて起こる組織の再分化は自然界でも見られるが、その分子メカニズムは良くわかっていない。研究代表者は、これまでAP2/ERF型転写因子の一つであるWIND1が、シロイヌナズナ傷害部位において細胞リプログラミングを正に制御し、引き続いて起こる茎葉再分化を促進することを見出している。本研究課題では、WIND1の下流因子候補として、主に別のAP2/ERF型転写因子であるESR1に注目して解析を進めた。ESR1は組織培養条件下において茎葉再分化を促進することが報告されている。ChIP解析、EMSA解析、トランスアクティベーションアッセイ、WIND1ドミナントネガティブタイプの植物を用いた解析等から、WIND1タンパク質はESR1のプロモーターに直接結合し、ESR1の発現を正に制御することで、傷口で起こるカルス化と茎葉再分化を促進していることが明らかとなった。この研究によって、シロイヌナズナには傷害ストレス後に細胞リプログラム関連因子によって誘発される茎葉再分化の分子カスケードが存在することが示された。ESR1の発現は、傷のみならず、外因性のオーキシンとサイトカイニン両方の添加によって相乗的に促進することが組織培養条件による実験で示された。また、この条件で野生株とESR1変異株との比較をすることにより、ESR1はCUC1、WUS、STMなどの茎葉メリステム形成に関与する転写因子の遺伝子発現を制御している可能性が示された。これらの成果を学術誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
シロイヌナズナWIND1誘導系を導入したナタネおいても、WIND1を発現させることで、胚軸切片からのカルス化および茎葉再分化がホルモンフリーの培地で起きることを確認した。この系において経時的な遺伝子発現解析を行うと、ナタネESR1ホモログ遺伝子の発現がWIND1発現誘導試験区のみで促進してくることが観察された。この結果は、WIND1-ESR1によるカルス化と茎葉再分化分子経路が、ナタネでも保存されている可能性を示唆するものである。現在この成果を投稿準備中である。このような、ナタネにおける成果は申請時には予期していなかったが、仮説を強く裏付ける結果となっている。
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今後の研究の推進方策 |
ESR1とそのホモログ因子であるESR2に注目し、植物界での分子の保存性を確認すると、ESR1よりもESR2に似た因子が広く保存されていることが示された。ESR1やESR2のターゲット因子を今後同定していくとともに、これらの因子とはパラレルに存在していると考えられる他の茎葉再分化関連転写因子とそのターゲット因子との関連も解析していくことで、脱分化から茎葉再分化へのより詳細な分子カスケードを明らかにしていきたい。また、傷害ストレスとWIND1がどのようなエピジェネティックな変化を茎葉再分化関連因子に対して生じさせているのかについても研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画当初には予定していなかったが、シロイヌナズナで行った本研究課題での成果をより一層深めることのできる異種植物での実験結果が出た。この解析を進めると共に、論文発表および学会発表等予定されるため。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子発現解析に用いる試薬およびキットを購入するほか、論文投稿費等に使用予定である。
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