研究課題
魚類精原幹細胞を識別するための分子マーカーを単離することを目指し、ニジマスを用いて研究を行った。ニジマスの精原幹細胞は、精巣細胞の移植実験系を用いることで、宿主生殖腺に生着する細胞として識別することができる。そこで、宿主生殖腺に生着した細胞における遺伝子発現を網羅的に解析することで、精原幹細胞の分子マーカーの単離を目指した。宿主生殖腺に生着した精原細胞(精原幹細胞)は、その数が非常に限られていることから、これまで、生着細胞そのものにおける遺伝子発現を網羅的に解析することは困難であった。そこで、本研究では、近年報告された1細胞レベルで網羅的に遺伝子発現を解析することができるQuartz-seq法を用いて生着細胞における網羅的な遺伝子発現解析を行った。「移植に用いた全精原細胞(大部分が生着能を持たない)」94細胞と、「宿主生殖腺に生着した精原細胞(精原幹細胞)」13細胞間で網羅的に遺伝子発現を比較した。その結果、2904種類のトランスクリプトの発現に有意な差が認められた。次に、これらのトランスクリプトの発現量情報を用いてPCA解析を行うことで、精原幹細胞を特徴づける遺伝子を探索した。その結果、第一主成分において「全精原細胞」と「宿主生殖腺に生着した精原細胞(精原幹細胞)」の違いが明瞭にみられることが明らかになった。そこで、第一主成分に対して0.4以上の相関係数を示すトランスクリプトを探索したところ、全部で101個同定された。このうち、生着細胞を特徴づけるトランスクリプトは74種類含まれていた。これらのトランスクリプトは、宿主生殖腺への生着能を有する精原幹細胞を識別するための分子マーカーの可能性が強く示唆される。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、Quartz-seq法により、「全精原細胞」と「精原幹細胞(宿主生殖腺に生着した細胞そのもの)」における遺伝子発現を網羅的に解析した。その結果、宿主生殖腺への生着能を有する精原幹細胞の分子マーカーの候補として、74種類のトランスクリプトを同定することに成功した。
今後は、得られた74種類の精原幹細胞マーカーの候補因子のうち、精原幹細胞を特異的に標識できる分子を同定するため、組織染色を行い、宿主生殖腺に生着した精原幹細胞を特異的に標識する因子を探索する。
今年度は、in sillico解析により、網羅的遺伝子発現解析で得られたデータの絞り込みに集中したため、分子実験に用いる試薬等の支出を抑えることができた。
今年度得られたデータをもとに、組織染色等によるさらなる絞り込みを進める上で、使用していく予定である。
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Biology of Reproduction
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