研究実績の概要 |
(1) 間質特異的発現遺伝子もしくは分子の決定:次世代シーケンサーを用いたRNA-seqによるトランスクリプトーム解析とリアルタイムPCR解析の結果から絞り込んだ19の間質細胞特異的発現遺伝子の候補について、3週齢のマウスを用いたin situ hybridization法で卵巣における局在解析を行った。その結果、Nid1, Col3a1, Spon1, Aspnの4遺伝子が間質細胞で発現していたものの、間質細胞特異的ではなく、同時に莢膜細胞にも発現していることが明らかになった。これらの結果から、卵巣内の莢膜細胞群と間質細胞群は非常に近い細胞集団であることが示唆された。以降、本研究では、莢膜・間質細胞群を標的として実験を進めた。 (2) 莢膜・間質細胞特異的遺伝子の発現パターン解析:(1) で行った局在解析の結果、Nid1, Col3a1, Spon1, Aspnの4遺伝子は、いずれも、二次卵胞以降の莢膜・間質細胞に発現していた。しかしながら、その発現の強弱やパターンは一様ではなく、Nid1, Col3a1, Spon1が内莢膜細胞、外莢膜細胞、間質細胞のいずれにおいても発現していたのに対して、Aspnは外莢膜細胞と間質細胞には発現していたものの、内莢膜細胞には発現していないことが明らかになった。以上の結果から、莢膜・間質細胞群は単一の機能をもった細胞のみで構成されているのではなく、幾つかの固有の機能を有する複数種の細胞で構成されている可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、平成29年度では以下の実験を行う。 (1) 間質細胞特異的発現遺伝子のパスウェイ解析: in situ hybridization法による局在解析で莢膜・間質細胞特異的な発現が確定したNid1, Col3a1, Spon1, Aspnの4遺伝子について、パスウェイ解析ツール(DAVIDなど)での解析や、既知の文献情報を基にそれらの分子経路を予測することで、「形態変化・分化」「移動」「増殖」などの生理機能を絞り込む。 (2) マウス卵巣、および、卵胞培養系による莢膜・間質細胞特異的発現分子の生理機能解析: (1) のパスウェイ解析の結果や既知の文献情報を基に、卵巣、および二次卵胞の培養系を用い、標的分子のアゴニスト、アンタゴニスト、経路の各種阻害剤などを投与し、生理機能解析を行う。二次卵胞の成長、形態変化、莢膜細胞層への間質細胞の遊走・加入を含む、間質細胞の移動などは三次元培養法(莢膜・間質細胞との共培養系)を用いて明らかにする。 卵巣器官培養法では、 a) 卵巣全体の中でのポピュレーション、すなわち、各成長段階ごとの卵胞の数や割合の変動、成長した卵胞の割合の測定などでの形態的な解析手法、b) BrdUの取り込みによる卵巣内細胞の増殖の可視化などの生化学的手法、c) 成長促進系の分子などが上昇している場合は、二次卵胞以降の卵胞ステージ特異的なマーカー遺伝子などのリアルタイムPCR法による発現定量などの分子生物学的手法を用いて解析し、これらから得られた結果を指標として「卵巣内での卵胞の成長の促進」を検証することにより、卵胞単体での作用が、卵巣器官内でも機能していることを証明する。
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