研究課題/領域番号 |
15K18569
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小林 勇喜 広島大学, 総合科学研究科, 助教 (80736421)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 体色調節ホルモン / 無脊椎動物 / 鳥類 / GPCR / Gタンパク質 / 比較内分泌 |
研究実績の概要 |
脳下垂体は様々なホルモンを産生し、内分泌の要となる重要な器官である。しかし、脊索動物および無脊椎動物において、脊椎動物の腺性下垂体に対応するホルモンの同定はなされておらず、腺性下垂体のシステムは脊椎動物の進化の過程で獲得されたと推測されてきた。申請者は、腺性下垂体ホルモンの一種である黒色素胞刺激ホルモン(MSH)受容体と相同な遺伝子の存在を軟体動物である“カキ”および脊索動物である“カタユウレイボヤ”のゲノムデータベースから見出した。本研究では、当該受容体遺伝子を同定し、機能解析を行うことでMSHシステムの進化的背景および、無脊椎動物から脊椎動物を通した統括的な理解の基盤を確立し、これまで不明であった腺性下垂体の進化およびそのホルモン研究のブレイクスルーを目指した。また、MSHと生理的に相反する作用を持つメラニン凝集ホルモン受容体(MCHR)は鳥類および無脊椎動物において研究が進んでいない。そこで、ウズラおよびナメクジウオにおけるMCHRの機能解析も含めて研究を行った。無脊椎動物のあらゆる組織から全RNAおよびゲノムDNAを安定して抽出可能な条件を確立した。また、最新のゲノムデータベースを参考にMSH様およびMCH様受容体特異的プライマーをデザインした。その結果、カキから3種類、カタユウレイボヤからは1種類のMSH様受容体の断片を得た。加えて、MCH受容体に関しては、ウズラからは1種類の全長配列およびナメクジウオからは2種類の部分配列を増幅した。全長をクローン化したウズラMCHRを含む進化系統樹を作製したところ、予想に反してウズラのMCHRは哺乳類よりも魚類に特徴が近い可能性が示された。また、この特徴は、CHO細胞を用いた培養細胞発現系解析から明らかにしたGタンパク質共役能を含む受容体機能からも支持された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、無脊椎動物(カキ、カタユウレイボヤ、ナメクジウオ)からMSHRおよびMCHR様の遺伝子断片を、合わせて6種類クローン化している。この数は当初の候補分子よりも多い数であるが、真に目的とする分子の候補が増えたことを示している。 さらに複合的な研究として、脊椎動物で唯一研究が進んでいない鳥類のMCHRに着目し研究を行った結果、ウズラから全長MCHR(哺乳類MCHR1に相当)のcDNAを増幅した。さらに、ウズラMCHRのアミノ酸配列比較および薬理学的手法を用いた研究により受容体機能も解析済みである。これにより、哺乳類から魚類を通して脊椎動物MCHRシステムを包括的に理解するための情報が出揃った。 以上より、一部遅れている項目はあるが、当初の予定より得られた収穫も多くおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
カキ、カタユウレイボヤからMSH様受容体のクローニングを引き続き行い、全構造を明らかにする。その後、発現ベクター系を構築し、培養細胞発現系を用いて真にMSH受容体であるかを精査する。具体的には、魚類型MSH類(N末端がアセチル化修飾された物とされていない物が存在するため、これら2種)を用いて、脊椎動物のMSH受容体のメインシグナルであるcAMP亢進能を解析する。この際、魚類型MSH類に対して応答を示さない場合には、脊椎動物MSHの最小活性単位であるHis-Phe-Arg-Trpの4連のペプチドを合成し、活性を測定する等、柔軟に対応する。また、受容体と培養細胞がヘテロガスな系であること、GPCRのGタンパク質共役能が進化の過程で変化することを考慮し、蛍光プレートリーダーを用いたリアルタイム細胞内Ca2+濃度変動アッセイ、リン酸化特異抗体を用いた細胞外シグナルキナーゼ(ERK) アッセイ(ウエスタンブロッティング)等も視野に入れる。 MCH受容体に関しては、ナメクジウオを中心に全構造のクローンニングを引き続き行う。その後、MCHの最小活性単位であるMCHの環状構造ペプチド等を用いて、MSH機能解析と同様の手法で受容体機能を明らかにする。鳥類であるウズラに関しては、哺乳類において普遍的に存在するMCHR2のクローン化を行い、受容体機能を解析する。 これらの結果を併せて、多機能ホルモン(体色調節、摂食、睡眠等)であるMSHおよびMCHのこれまでにない「脊椎動物から無脊椎動物を通した包括的理解」に繋げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画のヒントとなったゲノムデータベースの更新および貴重な生物の取得により、多少の計画変更を行ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
カキ、カタユウレイボヤ,ナメクジウオ,ウズラからMSH様あるいはMCH様受容体のクローニングを引き続き行い、全構造を明らかにする。その後、発現ベクター系を構築し、培養細胞発現系を用いて真に当該受容体であるかを精査する。具体的には、各ホルモンの最小活性単位ペプチドを用いた、受容体のシグナルであるcAMP、Ca亢進能を中心に解析する。以上を遂行するべく、分子生物学用、生化学用試薬、タンパク質合成、各種阻害剤等の購入に充てる。
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