研究課題/領域番号 |
15K18580
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
井手 聖 国立遺伝学研究所, 構造遺伝学研究センター, 助教 (50534567)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リボソームRNA遺伝子(rDNA) / 遺伝子サイレンシング / クロマチン |
研究実績の概要 |
本研究は、リボソームRNA遺伝子(rDNA)上にできる静的クロマチン構造の転写抑制メカニズムを解明することを目指している。平成27年度において①凝集構造体として観察される静的クロマチンのライブイメージングを行うために、当初、そのマーカータンパクであるTopBP1にEGFPを付加したコンストラクトをFlp-Inの組み換えシステムを利用して安定発現株の作成を試みた。しかし、発現が外来のプロモーターの強さに依存するため、TopBP1が通常より高く、かつ恒常的に発現した結果、細胞の生存に負に働き安定発現株をとることはできなかった。そこで、現在CRISPR/Cas9システムを利用して、内在性のTopBP1にGFPタグを付加することを試みている。 また、ライブセルイメージングに先立って、凝集構造体の発生の起源に目星をつける為に、TopBP1に対する抗体による免疫染色を用いて、細胞周期の同調や細胞老化の誘導、そしてプロモーター結合因子群をノックダウンするなどの様々な条件下での、 凝集構造体の出現頻度変化を調べた。その結果、クロマチンリモデリング因子のNuRD複合体に関わる因子がノックダウンされた時にのみ、有意に凝集構造体の発生頻度が4倍以上上昇した。過剰な凝集構造体の発生がNuRD働きによって回避されていることがわかった。②凝集したクロマチンの凝縮度を測定するために、rDNAクロマチンの一分子イメージングを行うための系の作成を試み、成功した。具体的には、UBFをPA-GFPでラベルし、超解像顕微鏡(PALM)で、追跡が可能となった。面白いことに、 凝集構造をとったクロマチンの動きが、 その見た目と裏腹に一分子レベルでは逆に上がっていることがわかりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ライブイメージング用のEGFP-TopBP1安定発現株の作成に手間どっているが、免疫染色によって、発生起源のきっかけがクロマチンリモデリング因子の低下が引き金になっていることがわかった。どのような生理的条件下で、NuRDの機能の低下が引き起こされるかを明らかにすることは次の課題である。また、rDNAクロマチンの一分子レベルの計測系は、予定通り作成することができ、新たに凝集したクロマチン構造内では、分子が速く動いていることがわかった。これは、免疫染色によるクロマチンの分布の変化から推察されるイメージには反する結果であり、非常に興味深い 。ただ、別のグループがTopBP1依存的静的クロマチン構造について5月に公表し(Sokka M. et al., Nucleic Acids Res 2015)が大きな痛手となり、今後競争が激化することが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
別のグループにより、本研究で着目していた静的クロマチン構造について公表されてしまったので、平成27年度に開発したrDNAクロマチンの一分子イメージング を軸にして、解析を行っていく。また、 代表者自身が留学先で 開発した包括的クロマチン因子同定法(ePICh法)を活用していく。これにより、静的クロマチンの凝集構造体を誘導後、プロモーター領域に結合する タンパクを網羅的に同定し、凝集構造体の構成因子を明らかにする。これらの2つのオリジナルの系を絡み合わせることで、競合相手と差別化を図り、クロマチン動きとそれを規定する役者を明らかにし、論文としてまとめて公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度と平成28年度にかけて、包括的クロマチン因子同定法(ePICh法)を用いて、静的クロマチン構造を構成する因子群を質量分析計により同定する予定であった。クロマチン精製実験に必要な費用と外注の質量分析にかかる費用の全てが平成28年度に回ったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
静的クロマチン精製実験に必要な試薬と質量分析(外注)にかかる費用に当てる。
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