本研究は、核小体内にできるリボソームRNA遺伝子(rDNA)の静的クロマチン構造を解明することを主眼とし、平成28年度にはその実態を明らかにすることに加え、静的クロマチンの凝集構造体とヒト遺伝病との関連を示すことに成功した。 TopBP1を一過的に強制発現させ、人為的に凝集構造体を誘導する系を作成し、一分子イメージングによって、凝集構造体内の分子の動きを観察した。転写が止まった凝集構造体内では、転写している領域に比べて、分子の動きが大きく上がっていた。これと同時に、転写装置の密集具合を測定することで、転写ファクトリーの存在の有無を検討したところ、凝集構造体内では、疎(バラバラ)になっていた。このことから、転写ファクトリーという留め金がなくなった結果、クロマチン構造がより大きなブラウン運動をしていると考えられた。次に、転写装置のサブユニットの一つに変異を挿入し、強制発現させたところ、核小体の淵に転写装置が集まった塊、TopBP1の強制発現によってできる凝集構造体と同じ類のものが観察された。実際、この塊の中では、転写が起こっておらず、rDNA領域やTopBP1が集まり、それらの分子が激しく動き回っていた。このことから、凝集構造体の実態は、機能不全となった転写装置がその自己集合化能によってできる液滴の塊、例えるならば水の中の油のようなもの、であることが明らかとなった。そして、興味深いことは、転写装置のサブユニットに挿入した変異は、ヒト遺伝病 下顎顔面異骨症(トリーチャーコリンズ症候群の一種)の優性原因因子として知られているものであり、本研究で着目した凝集構造体は、発生過程でリボソームRNAの合成を阻害し、遺伝疾患の引き起こす一因になっている可能性が考えられる。
|