葉緑体は細胞内共生により誕生したオルガネラであるが、その進化過程は非常に複雑である。紅藻や緑藻、陸上植物の葉緑体がシアノバクテリアを起源とするのに対して、本研究で用いたクロララクニオン藻は、緑藻を細胞内に取り込む「二次共生」により二次葉緑体を獲得した藻類である。本藻の二次葉緑体は4枚の包膜に囲まれ、その膜間領域には共生緑藻の核の痕跡である「ヌクレオモルフ」が存在しており、進化的・構造的にユニークである。本研究は、細胞周期を通してヌクレオモルフと二次葉緑体の分裂がどのように制御されているのか、またその制御機構がどのように進化してきたのかを明らかにすることを目的とした。 平成29年度は、二次葉緑体の最外膜の分裂装置の候補タンパク質であるダイナミンの局在解析を行った。クロララクニオン藻のゲノム中には5つのダイナミン遺伝子をもち、そのうち1つが二次葉緑体の中央部から突出するピレノイドの周縁部に局在することを明らかにした。このダイナミンが二次葉緑体の分裂に関与するかは未だ不明であるが、これまで他の生物で報告されているダイナミンの局在とは異なるものであった。期間全体を通して、クロララクニオン藻のヌクレオモルフDNAと二次葉緑体DNAの複製関連タンパク質の新規同定、二次葉緑体の内膜分裂装置であるFtsZの詳細な局在解析、外膜分裂装置の候補であるダイナミンの局在解析を行い、複雑な二次葉緑体の分裂を制御する遺伝子を明らかにした。いずれの遺伝子も、緑藻由来ではなく、ウイルスや他の藻類からの水平伝播に由来することが解り、二次葉緑体進化のモザイク性を示唆する結果であった。
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