研究課題/領域番号 |
15K18585
|
研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
宅野 将平 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教(特定有期雇用) (20547294)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | エピジェネティクス / ゲノム進化 / 自然選択 |
研究実績の概要 |
DNAメチル化は、エピジェネティクスによる発現制御機構の一つである。このDNAメチル化は、様々な生物で見られる。高等生物では、DNAメチル化は遺伝子発現抑制、特にトランスポゾンの発現を抑制し、トランスポゾンの転移によるゲノムの損傷を防いでいる。しかし、遺伝子の転写領域に見られるDNAメチル化は、機能が未知である。本研究では、このDNAメチル化を遺伝子内メチル化と呼称している。遺伝子内メチル化を持つ遺伝子は発現抑制を行わず、むしろ遺伝子内メチル化は高い発現量を示す遺伝子に観察される。申請者は、遺伝子内メチル化が植物のオーソログ間で保存されていることを発見してきた。このことは、遺伝子内メチル化が進化的に重要であることを示唆した。しかし、他の研究では、複数の植物が遺伝子内メチル化を失っても生きていることを発表している。 本研究では、遺伝子内メチル化の進化的意義をより深く理解するため、長期進化の過程において遺伝子内メチル化が変化している遺伝子に着目した。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)とA. lyrataで遺伝子内メチル化の有無が変化している遺伝子を同定し、さらにCapsella grandifloraを外群とすることで、どちらの種で変化が実際に起こったかを推定した。これらのデータから、遺伝子内メチル化の変異率を推定した。遺伝子内メチル化の変異率は、おおむね点突然変異率と同等であった。さらに、遺伝子内メチル化の変異が起こりやすい遺伝子の特徴を明らかにした。遺伝子発現量が低く、遺伝子長の短い遺伝子でこのような変異が起こりやすいことが明らかになった。このような遺伝子では、遺伝子内メチル化はそれほど重要でないと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度の研究では、前回の報告書で計画した通りの進捗が得られた。本研究はゲノムとエピゲノムの進化的インタラクションを検出することにある。遺伝子内メチル化は進化的に保存される傾向にあるが、例外が存在する。前年度は、シロイヌナズナとA. lyrataで遺伝子内メチル化の有無に変化が起こっている例外的な遺伝子を約400同定した。これらの遺伝子は発現量が低く、遺伝子長が短い。そうでない遺伝子には、遺伝子内メチル化に変化が見られにくい。つまり、遺伝子内メチルに自然選択がかかている可能性が提示された。さらに、今年度推進予定の研究の予備的研究も行えたため、本研究は非常に順調であると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、様々な植物種のDNAメチル化パターン、特に遺伝子内メチル化の進化学的解析を行ってきた。ここまでは、一千万から数億年前に分岐した植物種のメチル化パターンを比較してきた。本研究の集大成として、最終年度はシロイヌナズナ集団におけるDNAメチル化変異の集団遺伝学的解析を行う。つまり、シロイヌナズナの異なる個体間で見られるDNAメチル化、特に遺伝子内メチル化の違いに着目する。本研究の最終目的は、エピジェネティック修飾、特にDNAメチル化にかかる自然選択を検出することである。DNA変異にかかる自然選択の検出には、集団遺伝学的手法が最も適している。この手法をDNAメチル化変異に適応し、自然選択の検出を試みる。
|