ゲノムは、生物をその生物たらしめる全ての遺伝情報と定義されている。ゲノムの正体はDNA配列である。しかし、高等生物では、ゲノムはDNA配列単体として存在しているのではない。ゲノムは、エピジェネティック修飾と称される様々な化学的修飾を受けている。この修飾には、DNAメチル化、ヒストン修飾など様々なバリエーションがある。エピジェネティック修飾のゲノムワイドなパターンをエピゲノムと呼ぶ。申請者は、ゲノムとエピゲノムの進化的インタラクションの検出およびエピゲノム自体に働く自然選択の検定を目的として研究を行ってきた。申請者は、植物、特にシロイヌナズナをモデル生物として用い、遺伝子転写領域で観察される遺伝子内メチル化に着目してきた。これまでに申請者の研究により、遺伝子内メチル化は遺伝子発現制御に大きく影響することと、遺伝子内メチル化は自然選択により長期に渡り保存されてきたことを示した。一連の研究の過程で、遺伝子内メチル化を持つ遺伝子の進化速度は、持たないものより有意に遅いことが明らかになった。この現象は、DNAメチル化は突然変異原として働くという事実と矛盾する。この原因を特定するため、シロイヌナズナの種内多型データを解析した。遺伝子内メチル化を持つ遺伝子では、それらのDNA配列を保存するため、負の自然選択が働いていた。この結果の一般性を問うため、現在イネでも同様の解析を行っている。完全な結論はまだ得られていないが、シロイヌナズナと同様に負の自然選択が働いている可能性が示唆されている。
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