研究課題/領域番号 |
15K18591
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
長太 伸章 独立行政法人国立科学博物館, 標本資料センター, 特定研究員 (70533264)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地域分化 / 分子系統 / 琉球列島 |
研究実績の概要 |
本年度はこれまでに得られた標本をもとに分子系統解析および分子系統地理解析を開始した。複数の遺伝子について遺伝子増幅の可能性と多型濃霧について調査し、ミトコンドリアのCOI遺伝子のDNAバーコーディング領域と16Sリボゾーム領域、さらにEF-αなどの核4遺伝子の合計6領域を解析候補として決定した。最尤法・ベイズ法・近隣結合法による分子系統樹推定をおこない、大まかな種間系統関係を明らかにした。さらに琉球列島に生息するセミの対象種のうち1族をモデルケースとして決定し、種内の地域集団を含めたOTUを設定し、最尤法・ベイズ法・近隣結合法による分子系統樹推定をおこなった。この結果の一部は第64回日本生態学会にて発表した。分岐年代推定は既知の塩基置換速度をもとにBEAST2を用い解析した。様々なパラメータや分岐モデルはモデル比較を行うことによって決定した。また、八重山地方に分布するツマグロゼミについてはミトコンドリアのデータを用いた解析結果をまとめ、誌上で発表した。 また、野外調査として東京都の小笠原諸島、鹿児島県の屋久島および大隅半島にて鳴声調査とDNA解析・形態解析用の標本採集を行った。種子島も調査予定地に入っていたが台風接近による悪天候のため空路・海路とも欠航し調査できなかった。調査できた2地域においては解析に必要な数の標本を手に入れることができ、また一部の地域集団からは鳴声データも収集することができた。得られた標本は順次デジタル化し、形態計測を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
琉球列島ならびに小笠原諸島での野外調査は計画通り進んでいる。分子実験のうち、分子系統解析は複数の族がふくまれるが種内地域集団をふくんだ解析では多数のOTUを扱うことになるため、まず対象とする1族を決定し解析を行っている。様々な解析法を検討した結果、核とミトコンドリアをあわせて合計6遺伝子座を用いて最尤法やベイズ法、分岐年代推定を行うこととした。解析すべき手法が多い上に解析遺伝子数が多いため、計算に時間がかかっているが概ね順調に進んでいる。他の族や種に関してはこの検討結果を踏まえて解析できるため、解析効率が改善されると期待できる。また、次世代シーケンサーを用いたゲノムワイドSNP解析の予備解析を開始し、本解析に向けて良好な結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に向けて、本年度開始したモデル族での分子系統解析と分岐年代推定で採用した解析方法を他の族や種にも適用し分子系統解析ならびに分岐年代推定を完成させる。これまで順次行っている形態計測と鳴声解析についても計測を完了させて、解析に取りかかる。そして形態・分布・分子の統合解析をすすめる。また、モデルとなるクロイワツクツクやオガサワラゼミの種内などを対象に、次世代シーケンサーを用いたゲノムワイドSNP解析を行う。また、学会発表ならびに論文執筆をすすめて成果を公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた2つの学会のうち1つが合同大会となり本年度開催されなかった。さらに調査旅行の行程を変更し、2回の予定のところを1回で行うことができたため、旅費を圧縮することができた。さらに前年度より実験補助の雇用を中止し次世代シーケンサーを用いた解析を行っているが、必要試薬の購入をキャンペーン価格で行うことができたため、若干の経費を節減できた。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き次世代シーケンサーを用いた解析を行うが、新規の酵素を用いた実験を検討しており、これの試薬購入代に充当する予定である。また、成果公表のために英文誌に投稿予定であるが、その英文校閲費等に充当する。
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