研究実績の概要 |
本年度は, 日本産Theonellidae科カイメン類の既知種について, その形態的特徴と分子情報の取得を中心として研究を進めた. まず, 日本産既知種9種のうち, 国立科学博物館に収蔵されている4種分のタイプ標本と他4種分の登録標本について精査を行った. この結果, Discodermia jogashimaは, D. japonicaのシノニムである可能性が示唆された. また, 過去の研究者によりD. emarginataとされたカイメンは, 同定間違いであった可能性が高い. Discodermia属については, 潜水調査や深海調査により, D. calyx, D. kiiensis, D. japonicaの3種について新鮮な標本を複数得ることができ, 各種遺伝子の塩基配列を得た. また, 相模湾での深海調査により, これまで知られていないDiscodermia属の1種が採集された. 天然化合物研究で多く用いられているTheonella swinhoeiについても研究を行った. 八丈島および沖縄本島で採集した複数の標本を元に, その形態的特徴を洗い出し, 各種遺伝子の塩基配列を得た. その結果, これまで日本においてT. swinhoeiとされていたカイメンが, 少なくとも3種からなる可能性が高いことが判明した. うち1種は未記載種の可能性が高く, また, 3種は全てT. swinhoeiではないことがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本産既知種のうち, 当初予定していたストラスブール博物館に収蔵されている3種のタイプ標本の観察を行うことができていない. また, Discodermia irregularis, D. vermicularis, Siliquariaspongia japonicaの3種については, 分子系統解析用の標本を得ることができていない. 前2種は深海性で, S. japonicaについては原記載以降見つかっていないため, これらの採集は困難であることが予想されるが, 今後も採集の機会をうかがいたい.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き, 潜水や乗船調査により新規標本の採集を行うとともに, それらの形態解析, 分子系統解析を行っていく. 2015年度に新たに判明したこととして, これまでTheonella swinhoeiとして扱われていたカイメンが, T. swinhoeiではなく, 異なる3種のカイメンに分けられる可能性について, 組織学的なアプローチを進める上で今年度は組織切片用の標本固定および観察も行う. 日本産既知種のタイプ標本についての詳細な電子顕微鏡観察も進めていく.
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