研究実績の概要 |
本年度は, 日本産Theonellidae科カイメン類について, 前年度の日本産既知種から広げて, 本邦初記録種や未記載種の可能性のある種について研究を進めた. 主に沖縄の浅海性の種について形態的特徴と分子遺伝情報の取得を行った. その結果, これまで日本から1種しか知られていなかったTheonella属カイメンは, 少なくとも6種生息していることが判明した. Discodermia属についても既知種に加え新たに2種が追加される可能性が高い. また, 海底洞窟調査においては, 分子系統解析からTheonellidae科内に含まれることが確実ながら形態情報からは属不明のカイメンが少なくとも3種見つかっている. これらの全体像の把握のためには, 出来るだけ多くのTheonellidae科カイメン類を用いた分子系統解析と形態形質の再検討が必要となる. 合計46個体を用いた各種遺伝子解析の結果, ミトコンドリアゲノムのCO1遺伝子1200bpでは近縁種間で配列の違いを検出することができなかった. 細胞核のITS2領域では, ゲノム内変異により他種間の比較が非常に困難であることが判明した. 少なくともTheonellidae科カイメン類については, 現在データベース上に登録されている遺伝子の塩基配列情報から種の同定を行うのは正確性に欠けることがわかった. また, 系統解析のためには, 28SrDNAや18SrDNA, 更には新たな遺伝マーカーの探索が必要であると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
浅海域のTheonellidae科カイメン類については, 形態観察が少し遅れてはいるものの塩基配列情報の取得は概ね順調に進んでいる. 一方, 深海性の種については本年度中に採集に行くことができなかった. また, 当初予定していたTheonella swinhoeiのタイプ標本の観察が行えておらず, 模式産地である台湾での採集が行えていない.
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