研究実績の概要 |
材腐朽性きのこ類の進化には, エサとしての材資源への適応が大きく影響している事が,近年のゲノム情報を用いた解析からも示唆されている。本研究では, 白色腐朽菌から成るタマチョレイタケ科を材料に, 未記載種・未検討種を含めた分子系統解析から系統関係の解明し, 各種における生態学的・生理学的・組織学的な材分解特性を特徴づける事によって木材腐朽性きのこ類の進化に伴い,「エサの喰い方」の変化・多様化を明らかにし, その多様化を促した原動力を考察することを目的としている。 平成27年度は, 網羅的種によるタマチョレイタケ科の詳細な分子系統関係の解明に取り組んだ。本科の主要種における核のLSU領域, ITS領域, RPB2領域のDNA配列を決定し, 分子系統解析を実施した。その結果, 本科における多くの属が多系統群である事が明らかになった。 また, 次年度以降に実施予定である各菌の生産リグニン分解酵素類の分析に向けた予備実験を行った。培養菌体への反応基質の滴下による検討の結果, 当初予定していた培養菌体への試薬(基質)の変色性では, リグニン分解酵素種を正確に判別することが困難であることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は, 未同定種を含めた分子系統解析を実施し, 詳細な系統関係を明らかにする予定である。また, 国内を中心に平成27年度に計画していた菌株・標本の収集にも取り組み, 材分解の特性を含めた各種の生態的情報も蓄積する予定である。平成27年度のリグニン分解酵素の分析に関する予備実験にて, 当初予定していた方法が有用ではないことが示された。今後は, 液体培養ろ液や寒天培地から生産酵素類の活性を測定し, 生産酵素種の分析をする。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は, 平成27年度に計画していた分子系統解析や酵素分析に関わる試薬類等の消耗品の購入を予定している。採集調査による菌株・標本収集も計画しているが, 当初計画していたブラジルについては, 国の情勢の変化, カウンターパートの所属する研究機関の都合により実現困難な可能性が高い。そのため, 代替国での調査もしくは国内調査を主とする予定である。それ以外には, 成果発表のための学会参加旅費などを計画している。
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