研究実績の概要 |
本研究では, 主要な木材腐朽菌からなるタマチョレイタケ科を材料にその詳細な系統関係と各種の木材腐朽における特性を明らかにし, それらを比較することで, エネルギー獲得における進化傾向や多様化の解明を試みるものである. 平成28年度は, 国内 (鳥取県, 兵庫県, 長野県)で木材腐朽菌の子実体の収集とそれらの菌株の確立を行うとともに, それらの生態情報としての基質(樹種や発生部位など)情報などの収集を実施した. タマチョレイタケ科22属50種を用い, 3遺伝子領域に基づく分子系統解析を行い, その系統関係を明らかにすることができた. また, 子実体の形態的特徴を詳細に検討し, 傘表面の菌糸構造などが系統によって異なることが明らかとなり, これは分類上, 有用な形質であることが示された. 菌の生産するリグニン分解酵素類(リグニンペルオキシダーゼ, マンガンペルオキシダーゼ, ラッカーゼ)とそれらの活性を分析した結果, 菌の生産する酵素類と活性は株によって異なり, 系統とは相関がないことが明らかになった. また, リグニン酵素の簡易分析法を検討した結果, これまで使用していた酵素生産を促すための液体培地による培養法を用いずとも, 高栄養培地で菌体を前培養し, それを移植して培養した寒天培地を用いることで, 酵素分析が可能であることが分かった. 一方で, 菌体培養に用いる培地組成によって, 生産されるリグニン分解酵素類は変わらないものの, 酵素活性は変化することが明らかとなり, 同一の株であっても不安定であった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は目標としていた分子系統関係を明らかにすることができた. また, 詳細な形態的特徴も明らかにし, その中で, 未同定種の存在や複数属において再編成の必要性が明らかになるなどの分類学的な知見を得ることもできた. 木材腐朽に関する特性の1つとして, 菌体培養法による各菌の生産するリグニン分解酵素類に着目し, それらの分析を行うことができた. これは来年度に実施目標としていた項目である. 結果, 系統関係と酵素の生産性や活性とは相関がないという結果を得ることができた. また, 分解特性の簡易分析法の確立を目的とした実験を通して, リグニン分解酵素に関するに関する基礎的知見を得ることができた. 一方で, 各菌の腐朽基質に関する生態情報の収集については, 国内の限られた地域でしか実施することができなかったため, 「おおむね順調に進展している」とした.
|
今後の研究の推進方策 |
木材腐朽における特性の検討として, 木材片の腐朽試験を行い, 木材成分や木材組織に着目して研究を進めていく予定である. 平成29年度は使用する樹種や使用する木材部位(辺材や心材など), 腐朽期間の検討や腐朽過程における木材成分と木材組織の変化の測定方法の確立を目指した予備実験を実施していく. また, 国内を中心とした野外調査を行うことで, これまで成果が不十分である, 各菌の基質(樹種など)に関する生態的情報も精力的に収集していく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
海外調査については, 国内への遺伝資源(菌株)の移動やそれらの研究利用に関する制限などの難題が多くあるため断念した。そのため, 平成28年度は国内調査を主にすることに計画を変更したが, さほど旅費がかからなかったため, 残金が生じた。
|