近年、刺胞動物門の分子系統解析が多く行われており、その中のイシサンゴ目についてもmtCO1やrDNAの配列などから得られた様々な系統樹が発表されています。これらのコンセンサスとして、イシサンゴ目のグループは、RobustとComplexという2つのサブグループに分かれることが明らかとなってきました(Romano and Palumbi 1996)。しかし、サンゴの形態(群体形)とこれら2つのサブグループには全く関係性がみられず、サブグループの分かれ方がどのような差異を生んでいるのかは未だに不明です。そこで、刺胞動物の発生様式が多様であることに着目し、発生様式と系統関係に何らかの繋がりがあるかどうかを調べました。すると、分子系統学的解析で得られていた2つのクレードの差異は、生息環境の影響をあまり受けることのない発生胚の短期的な形態にも現れていたと考えられました。そこで、本助成金により、新たに採取したイボヤギとCyphastreaの発生様式の結果を含めて、Okubo (2016) では、発生様式と分子系統解析の結果を分類形質として、イシサンゴ目で多系統に出ていた既存の亜目に属する科を全て再構成し、2つの新亜目を提唱しました。その第一の亜目は、発生過程で胞胚腔がない若しくはほとんど見られず、分子系統解析でcomplexに属するサンゴです。静かにいつのまにか内側が満ちていく原腸形成の特徴から、シズカテマリ亜目(Suborder Refertina Okubo 2016)と名付けました。また、第二の亜目は、明らかな胞胚腔が見られ、分子系統解析でrobustに属するサンゴです。丸型の胞胚がまるで波に浮かぶ風船のようである様子(図1F-L)から、ナミフウセン亜目(Suborder Vacatina Okubo 2016)と名付けました。
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