研究実績の概要 |
植物の適応的な葉形変異として、渓流植物の細葉形態の発達に関わる遺伝子を探索するため、本年度は渓流植物と、広葉形態をもつ近縁種を用いて、葉の発達段階における遺伝子の発現パターンを詳細に比較・解析した。 遺伝子発現解析として、①細葉の発達段階と成熟段階、②広葉の発達段階と成熟段階、③細葉の発達段階と広葉の発達段階でRNA-seq解析を行い、統計的に有意に(FDR P-value < 0.01)発現量が異なる遺伝子群(Differentially Expressed Genes: DEGs)を検出した。その結果、DEGsの数は、①3,921個、②1,746個、③5,895個となった。続いて、それぞれのDEGsの遺伝子機能(Gene Ontology: GO)を予測し、全発現遺伝子(142,648個:細葉型をリファレンスとした)のGOと比較して、有意に変化しているGOをFisher's Exact Testによって検定した結果、細葉および広葉の発達中に活性化している遺伝子群が検出された。とりわけ、細胞壁や細胞膜の機能、Carbohydrateの代謝機能が増加していた。さらに、発達中の細葉と広葉で比較した結果、細胞壁や細胞膜の機能などに関して差が確認できた。したがって、全体的な遺伝子発現パターンにおいて、これらの遺伝子群の機能的変化により、葉の発達や形態形成の差異がもたらされている可能性が示唆された。 また、葉の発達に関与すると予測されるオーキシンに関連する遺伝子の発現パターンを解析した結果、オーキシン生合成に関わるYUC遺伝子、オーキシンの輸送に関わるPIN/PILSおよびAUX1/LAX遺伝子、オーキシンの受容やシグナル伝達に関わるAFB遺伝子、AUX/IAA遺伝子において、発達中の細葉と広葉の間で明瞭な発現差が検出された。
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