最終年度は、前年度より進めていた鹿児島湾(人工設置、水深101m)とブラジル・サンパウロ海嶺(自然発生、水深4、204m)という地理的にも物理的にも非常に異なる2地点に存在する鯨骨化学合成生態系における真菌多様性の解析結果について論文にまとめ、投稿に至った。調査を行った異なる両2地点の鯨骨化学合成生態域において、共通して未知原始的菌類が優占して存在する事、またその存在量は鯨骨からの距離によって(鯨骨に近い堆積物中では腐生菌類が多くなり、鯨骨から遠い堆積物中では未知原始的菌類の存在量が多くなる)違いがあることなどが明らかとなった。近年、深海のみならず様々な海洋環境中における未知原始的真菌の存在が明らかになり始めており、その起源や分散機構、生態など今後はさらなる解明をめざして研究を進めていく必要がある。 また、今年度は8月ー9月にかけて参加した研究航海において、深度約6、000m近くの深海底にも沈木が多数存在する事が明らかになり、採取した沈木の一部から菌類の子実体を発見した。これにより、深海に特殊に適応進化していると考えられる偏性深海性菌類の存在が強く示唆された。 研究期間全体を通じて深海環境における真菌多様性、未知原始的菌類の存在傾向、その新規性などを明らかにした。また共同研究を通じて、深海環境より分離した真菌類から抗ミズカビや抗腫瘍、抗酸化といった有用生理機能をもった新規化合物を発見し、報告した。
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