研究課題/領域番号 |
15K18607
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻 かおる 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (40645280)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヒサカキ / 花 / 匂い / 送粉者 / 雌雄差 / テナックス / 双翅目 |
研究実績の概要 |
花の匂いに雌雄差があるのかを調べるため、テナックスとツイスターを用いた捕匂、分析を行った。これらの方法で捕集した場合、捕集できる物質が異なることが明らかになった。また、ヒサカキの花の匂いにはジメチルトリスルフィドという、臭気を持つ物質が含まれていた。その物質は、クロバエやイエバエなど腐食性の双翅目が産卵場所を選ぶ際に定位に用いていると考えられ、またこれら双翅目が送粉を行う花の匂い成分の特徴と言われている。この物質が検出されたことは、ヒサカキの送粉者がこれらのハエを含む双翅目であるという観察結果を支持すると考えられる。 そこで、この物質を含む花の匂い成分が、送粉者の誘引に寄与している可能性があると考え、訪花した送粉者数の計測を行い、匂い量との相関を調べた。匂い量の解析では、テナックスを用いた測定結果を利用した。その結果、匂い物質量と送粉者数の間に正の相関は見られないことが明らかになった。また、花の匂い物質の量を雌雄で比較したが、有意な差はみられなかった。これらの結果は、送粉者の誘引において、匂いの存在は必要かもしれないが、匂いの強さは送粉者の誘引に効果を持たないことを示唆している。
さらに、ヒサカキの雌雄の枝と2種のハエを用いた、行動実験を行い、花を訪れたことのないハエの初期訪花頻度、滞在時間が、雌雄の花で異なっているのかを調べた。その結果、雌雄の花で初期訪問花頻度に違いは見られなかったが、滞在時間は雄花より雌花で長いことが明らかになった。雌花は雄花より糖度の高い花蜜を持っているため、雌花での滞在時間が長くなったと考えられ、雌花は送粉者を呼び止める形質を進化させている可能性を示唆していると考えられる。
これらの結果は、花形質の進化を考えるには、送粉者の数だけでなく行動にも着目する必要があることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度実施計画にある、花の匂い分析と送粉者の誘引に関する測定を終え、送粉者の誘引に寄与していると考えられる匂い物質が花から出ていることを明らかにした。しかし、この匂い物質の量と送粉者数に正の相関がみられなかったことから、匂いの強さは送粉者の誘引には寄与していない可能性が示唆された。匂い量が誘引に寄与していないために、雌雄の花でこれら揮発性物質の量に有意な差がみられなかった可能性が考えられる。
さらに、ヒサカキの雌雄の枝と2種のハエを用いた、行動実験を行い、花を訪れたことのないハエの初期訪花頻度、滞在時間が、雌雄の花で異なっているのかを調べた。その結果、雌雄の花で初期訪問花頻度に違いは見られなかったが、滞在時間は雄花より雌花で長いことが明らかになった。雌花は雄花より糖度の高い花蜜を持っているため、雌花での滞在時間が長くなったと考えられる。
これらの実験遂行及び、その成果により、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた実験・測定結果をもとに、さらなる解析を行うことで考察を深め成果をまとめる。 また、匂いや糖の標品を用い、それら物質の存在が送粉者の誘引や定位、滞在時間に寄与しているのかの行動実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
行動実験の進行状況により、標品の購入時期が27年度内に終わらなかったことなどにより、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度購入予定にしていた標品などの消耗品の購入を今年度に行う。
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