前年に引き続き、花の匂いに雌雄差は見られるのか、また、匂いは送粉者の誘引に関与しているのかを調べるため、匂いと送粉者数の関係についてのさらなる解析を行った。この解析においても、前年度の報告にあるように匂いの主成分に雌雄差は見られなかったが、今回、新たに、微量成分であるδ-テルピネンは雄花で有意に多いこと、α-テルピネンとγ-テルピネンは有意ではないものの、雄花で多い傾向が見られることが分かった。さらに、このテルピネン類は、複数の送粉者の数と有意に相関していた。このことから、微量成分ではあるが、これらテルピネン類は送粉者の誘引に寄与していると考えられる。 また、送粉者の中でも、膜翅目は少数派であるが、その個体数は、匂いの強さや組成と有意に相関していた。また、送粉者の内のほとんどは双翅目昆虫であり、その半数近くを占める短角亜目では、その個体数は匂いの組成と有意に相関していた。さらに興味深いことに、送粉者の数と匂い関係は、ヒサカキの雄花と雌花で有意に異なることが示され、これは送粉者が匂いを用いて雄花と雌花を識別していることを示唆している。これらの成果は現在論文執筆中である。 本研究の目的は、上述の花の匂いを含む花形質の雌雄差を明らかにし、その雌雄差のある形質が送粉者の誘引に寄与しているのかを明らかにすること、そのうえで、なぜ花の雌雄差が進化したのかを明らかにすることにある。そこで、本年度は、昨年度に行った送粉者の行動実験及び、花形質の雌雄差に関する解析結果をもとに、どのような選択圧のもとで雌雄差が進化しやすいのかを検討するためのシュミレーションも行い、現在結果をまとめている。
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