マダガスカル固有の小型霊長類であるジェントルキツネザルは、竹を主食とした極めて特異な採食戦略をとる。最も重要な食物である Cathariostachys madagascariensis は致死量を超える青酸配糖体を含有することがわかっているものの、どのような仕組みで解毒されているのか未だに解明されていない。調査地であるラヌマファナ国立公園では、3種(ヒロバナジェントルキツネザル、キンイロジェントルキツネザル、ハイイロジェントルキツネザル)が同所的に生息している。本研究では、採食パターンと腸内細菌を比較することで解毒メカニズムとの関連性について検証した。3種とも竹を主食とするが、有毒な竹への依存度や採取部位への嗜好性が異なった。採取した糞からDNAを抽出し、次世代シーケンサーで腸内細菌種を網羅的に調べたところ、有毒な竹への依存度が最も高く、固くて繊維含有量の高い竹稈の採食が確認されたヒロバナジェントルキツネザルの細菌叢は他の2種とは大きく異なっていた。パンダにおいて竹食との関連性が示唆されているクロストリジウム属については、ヒロバナジェントルキツネザルからのみ検出される配列、他の2種からのみ検出される配列が確認された。動物園で飼育されているハイイロジェントルキツネザルの腸内細菌叢も解析したところ、野生個体とはまったく異なるパターンを示し、採食内容の違いが大きく反映されることが示唆された。終了後の現在も、菌種の機能性を調べるための解析を続けている。
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