研究課題/領域番号 |
15K18610
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
北條 賢 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 特命助教 (70722122)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 社会性 / 昆虫 / 分業 / コミュニケーション / 嗅覚受容体 |
研究実績の概要 |
社会性昆虫はコロニーと呼ばれる集団を形成し、強固な分業システムを基盤に集団として適応的に振る舞うことができる。分業システムでは集団内のある限られた部位で交わされる局所的な個体間相互作用を介して相手の個体情報を認識し、自身の労働を特殊化させと考えらる。本研究の目的はクロオオアリCamponotus japonicusを題材に、個体情報を司る炭化水素シグナルおよびその受容体を同定し、さらにはシグナル受容から行動の特殊化へと至る過程で作用する遺伝子群や神経活動を調べることで、社会性昆虫における労働分業の調節機構を明らかにすることである。本年度はまず、コロニーを構成する各個体のマーキングと長時間のビデオレコーディングによる行動観察を行い、採餌に特化した個体の存在を確認した。また採餌個体を一時的に取り除くと、残りのメンバーの一部が採餌へと役割を変えるが、採餌個体をコロニーに戻すと新規採餌個体が採餌に費やす時間は減少し、巣内での活動へと移行した。このことから、クロオオアリにおいて労働分業が個体間相互作用を介して可塑的に調節されていることが示唆された。受容体の機能解析では、働きアリに顕著に発現する嗅覚受容体遺伝子群を見出すことに成功し、そのうち数個の受容体遺伝子について全長クローニング、cRNA合成を行い、アフリカツメガエル卵母細胞発現系を利用した機能解析系を立ち上げた。卵母細胞を用いた電気生理実験の結果、発現させた嗅覚受容体はクロオオアリの体表炭化水素画分に特異的に応答する傾向が見られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はクロオオアリにおける分業調節を確認すると同時に、分業調節における炭化水素の機能を調べる予定であったが、アリの個体識別に基づく分業様式の把握に時間がかかり、炭化水素を用いたアッセイは予備的な実験を行うに留まってしまった。炭化水素受容体の機能解析については実験系を確立することに成功し、受容体の候補を絞り込めたため、当初の予定どおり順調に進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは炭化水素を用いた行動アッセイを集中的に行い、今年度の遅れを取り戻す。受容体の機能解析は単一の炭化水素成分を用いた実験を進め、受容体の応答特性を明らかにするとともに、行動アッセイの結果と照らし合わせ、分業調節に重要な成分と受容体を絞り込む。また炭化水素受容体遺伝子の分子進化解析を進め、その進化プロセスを探索する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた炭化水素を使った行動アッセイを今年度行うことができなかったため、必要な試薬・実験器具の購入費を次年度に繰り越すに至った。
|
次年度使用額の使用計画 |
各炭化水素標品の購入と炭化水素を塗布するガラスダミーの作成に使用する。
|