研究課題
社会性昆虫はコロニーと呼ばれる集団を形成し、強固な分業システムを基盤に集団として適応的に振る舞うことができる。分業システムでは集団内のある限られた部位で交わされる局所的な個体間相互作用を介して相手の個体情報を認識し、自身の労働を特殊化させと考えられる。本研究の目的はクロオオアリCamponotus japonicusを題材に、個体情報を司る炭化水素シグナルおよびその受容体を同定し、さらにはシグナル受容から行動の特殊化へと至る過程で作用する遺伝子群や神経活動を調べることで、社会性昆虫における労働分業の調節機構を明らかにすることである。2016年度は昨年度明らかにした2つのタスク、採餌に特化した個体と主に巣内で活動する個体の体表炭化水素混合物の構成を比較した。その結果、2つのタスク群の間で炭化水素混合物の量的な違いが確認され、クロオオアリにおいて労働分業に伴う匂いシグナルの変化が示唆された。さらに各タスクの炭化水素精製物を担体に塗布し、働きアリに提示し行動を解析した。その結果、働きアリは採餌個体の炭化水素に対する接触頻度が高い傾向が見られ、アリが各タスクの匂いの量的な違いを識別していることが示唆された。現在は匂い識別能力をより詳細に定量的に計測することを目的に嗅覚連合学習パラダイムの構築を進めている。また今後はタスクによって変化する匂いを識別する神経機構を、匂いの知覚に関わる末梢神経系に着目して重点的に進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
匂いシグナルの比較と識別行動実験について、論理的に解釈可能な結果が得られており、当初の期待通りに研究が進んでいる。
まずは炭化水素を用いた嗅覚連合学習パラダイムの構築を進め、匂い識別能力を高精度で定量化し、匂いシグナルの変化と受けて側の認知能力の関係性について議論を深める。また新たに電気生理実験系を立ち上げ、末端神経系での匂い識別機構の解析を進めていく。
電気生理実験に必要な機器の選定に時間を要し、また研究代表者の所属機関が変更したこともあり、予定していた機器の購入を次年度初めに移行した。
電気生理装置の導入に使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件)
比較生理生化学
巻: 33 ページ: 60-67
10.3330/hikakuseiriseika.33.60