植物の種間競争における研究では、ある種とある種がそれぞれ1個体で生育している条件が想定されて進められてきた。しかし、実際には植物集団中には遺伝構造が存在し、多くの場合植物は近縁個体と共に種間競争に曝される。本研究では、オオバコと他種競争者であるシロツメクサを用いた栽培実験を実施し、遺伝的に近い個体と集団で生育することが、種間競争に対して有利に作用することを明らかにした。さらに、近隣の同種個体の遺伝的類似性の識別や競争者の存在の識別は、種子の段階から水溶性の化学物質を用いておこなわれている事、種子はそれらの情報を統合して種間競争環境下で有利となるように発芽タイミングを調節している事も明らかにする事ができた。加えて、種間競争に対する近隣個体の遺伝的類似性の効果をトウダイグサ科やベンケイソウ科といった様々な分類群においても検証を進め、いずれの種においても近隣個体の近縁度に応じた応答が種間競争において有利に働く事を明らかにした。また、つる植物を用いた実験では、つる植物の巻きひげが自他を識別し、自身への巻き付きを避ける自他識別能力を備えていることを発見した。この自他識別においては、株が連結して生理的に同調していることが自己と識別される条件であることも明らかにした。これらの結果から植物には少なくとも生理的な接続に依存する自己識別と依存しない近縁識別という2つの個体識別システムが存在する事も判明した。以上の成果から、生物群集の成立時の主要な要因の1つである種間競争の結果が種内の遺伝的要素に依存していることが明らかになった。今後は、種内の遺伝的要素の時空間的変動から種間関係を解析することで、生物群集の成立や動態を予測することが可能となると考えている。
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