本研究は,産卵行動の観察が容易なヘビギンポ科魚類ヘビギンポを用いて,1.受精動態と隠れた雌の選択を考慮した’配偶後の性淘汰’の実態を解明すること,2.精子形質の適応進化の解明を通じて配偶後の性淘汰に関連した適応進化を実証することを目的とし,これらの成果によって体外受精生物における配偶後性淘汰の理解を前進させることにある.研究計画の最終年度である本年は,宇和海の浅海域でヘビギンポのスニーカー雄の産卵に関連した行動の詳細な野外調査を実施した.雌の行動の理解を深めるため,雌の産卵行動を中心にデータを採った.これは初年度にも実施したが,産卵行動の一部しか観察できず,今回新たにデータを補足するために実施した.しかし,ビデオ上で透明卵の観察は困難であり,良いデータを採ることはかなわなかった. 次に,精子の耐水流能が雄由来なのか雌由来なのかを調べるための実験を行った.これは精巣から直接採集した精子と精漿(遠心分離)及び卵胞液を組み合わせ,一定の水流に対し精子がどれだけ残るかを調べた実験である. また,昨年度に見出した捕食者の存在と他種の存在がスニーカーの成功に影響しうるという仮説を検証するため,捕食者の提示実験も実施した. 最後に,異なる戦術の精漿が精子の運動能力に影響するかどうかを検証するため,卵+なわばり雄の精子+スニーカーの精漿,卵+なわばり雄の精漿+スニーカーの精子,各操作の精漿なしで精子の運動性を計測した.現在解析中であるが,精漿が何らかの影響を与えているならば,精漿の有無が運動性に違いを与えているという成果が期待される.
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