研究課題/領域番号 |
15K18615
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
小沼 順二 東邦大学, 理学部, 講師 (10613838)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 体色 / 適応進化 / 遺伝基盤 |
研究実績の概要 |
昆虫は100万種以上が存在する最も繁栄に成功した生物群であり、とりわけ、その色彩豊かな体色変異は、多くの生物学者を魅了してきた。昆虫体色の多様化は、隠蔽色と警告色という相異なる適応的意義により進展したと考えられている。隠蔽色とは、ナナフシや蛾のように木枝にカモフラージュした体色をさし、捕食者から身を隠す効果をもつ。一方、警告色は、スズメバチの黄色・黒色のコントラストのように毒々しく目立つ体色を示し、外敵に対し威嚇の効果をもつ。後者は、ミューラー型擬態やベイツ型擬態など、擬態として適応進化したと考えられているが、その適応進化過程、及び遺伝基盤は未解明な部分が多い。 体色の著しい変異は地表徘徊性昆虫であるオサムシにもひろくみられる。東日本に生息するアオオサムシは大部分が緑色の体色をもつ一方で、房総半島南部の集団は赤体色をもち通称アカオサとも呼ばれる。貝食性オサムシであるマイマイカブリにおいても地域間で緑、赤、青など体色の著しい変異がみられるが、その適応的意義は全くわかっていない。これらの甲虫の体色変異は多層膜構造とよばれる幾層もの膜の重なりに対し異なる波長の光が反射することで金属光沢のある体色が生じている。体色変異の適応進化を考える上でその遺伝基盤が必須であるが、交雑系統等を用いた遺伝基盤の報告例は存在しない。 そこで本研究では、オサムシ体色変異の適応的意義と遺伝基盤解明を目的にアオオサムシとマイマイカブリを用いた体色適応進化の研究を進めた。千葉県を中心としたアオオサムシのサンプリングを行い、RGB表色系とスペクトルフォトメーターを用いた分光測色法を用いて体色の定量化を行った。また、佐渡島亜種であるサドマイマイカブリと粟島亜種であるアオマイマイカブリを親集団とした戻し交雑個体に対し体色の定量化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、当初、粟島亜種のアオマイマイカブリと北海道に分布するエゾマイマイカブリを用いた交雑系統の構築に取り組んでいたが、十分な個体数の累代系統の構築を進めることができなかった。理由として、エゾマイマイカブリの繁殖が難しかった点があがる。エゾマイマイカブリが北方地域に生息している集団であることもあって、これまで構築させた飼育条件下で十分数のマイマイカブリ個体の繁殖が難しかった。そこで交雑系統をアオマイマイカブリとサドマイマイカブリに変更し、研究をすすめるに至った。 一方で、体色の定量化は、大きく改善させることができた。スペクトルフォトメーターを用いた分光測色法の定量化だけでなくRGB表色系を用いた3次元データの多変量解析により、体色を正確に測定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、オサムシ体色の適応的意義を検証するため、野外においてオサムシの模型を用いた野外生態実験を行う。また戻し交雑個体を用いた連鎖解析と体色のQTLマッピングを行い体色関連遺伝子の探索を進める。また、QTL領域個所をマイマイカブリゲノム上で特定し、アノテーションデータから体色に関わる遺伝子の特定に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、初年度にマイマイカブリ個体を用いたシーケンスを計画していたが、予定通りに系統構築を進めることができず、DNAシーケンスを行うことができなかった。そのためRADシングルエンドシーケンス費用を次年度に使用する計画となった。
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次年度使用額の使用計画 |
分子実験に必要な試薬・キット購入費、RADseq用のバーコード塩基配列購入費、RADseqシーケンス代金、野外調査での旅費代金に用いる。
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