本研究は、昆虫にみられる著しい体色変異が隠蔽色や警告色などの捕食者戦略として適応進化したとの仮説のもと、地表徘徊性昆虫であるオサムシを材料に、体色の遺伝基盤とその適応的意義を明らかにすることを主目的とした。 主な材料としてマイマイカブリに焦点をあてた。マイマイカブリは、西日本の生息する亜種において黒く目立たない体色を持つ一方、東日本に生息する亜種では赤、青、緑など、著しく派手な体色変異を示す。これらのマイマイカブリ体色変異の遺伝基盤を解明するために、体色の異なるマイマイカブリ亜種間の戻し交雑系統から連鎖地図を作製し、体色を表現型値とするQTLマッピングを行った。その結果、One QTL scan法によるQTLマッピングの結果、緑体色と青体色に関してLODがピークとなる複数の遺伝領域を見つけることができた。また、Two QTL Scan法では、緑体色と青体色に関してエピスタシスな効果をもつ遺伝領域を見つけることができた。これらのQTLがマイマイカブリ体色の遺伝基盤となっている可能性が考えられる。 また、実験室内で黒体色をもつマイマイカブリと派手な体色をもつマイマイカブリの行動を観察した結果、黒体色の個体は夜行性である一方、派手な体色の個体は昼行性である傾向を観察することができた。この結果は、派手な体色が、日中、捕食者に対する警告色として機能している可能性を示唆している。この仮説を検証するために模型を用いた野外実験を行ったものの、体色間で攻撃率に差がなく仮説を支持する結果は得られなかった。しかし、模型が捕食者に対して十分認知されており、今後の研究につながる結果となった。
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