研究課題/領域番号 |
15K18616
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小糸 智子 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (10583148)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 深海性多毛類 / チオタウリン / 硫化水素 / 熱水噴出域 |
研究実績の概要 |
調査航海(『かいよう』KY15-07)において伊豆小笠原海域明神海丘、ベヨネース海丘より無人探査機“ハイパードルフィン”を用いて熱水噴出孔周辺に生息するマリアナイトエラゴカイを含む多毛類を複数種採集した。多毛類は浅海から深海まで形態・分子いずれも系統関係が明らかでないため、まずミトコンドリアDNACOI配列による系統解析を試みた。その結果、採集した多毛類はウロコムシ科、ゴカイ科、カザリゴカイ科、エラゴカイ科、ミズヒキゴカイ科に属することが明らかとなった。しかし、イトエラゴカイおよび形態的に類似しているものの別種と考えられる3種の塩基配列が同一であったため、これらについて28S rRNAおよびミトコンドリアDNA 16S rRNA、Cyt b、ND4領域の塩基配列解読を実施したがどの領域も同一の配列であったため、コンタミネーションの可能性が考えられた。 発現している遺伝子を網羅的に解析する目的でマリアナイトエラゴカイおよび深海性のウロコムシから全RNAを抽出し、次世代シーケンサを用いたRNA-Seqを実施した。各々1個体を解析し、RNA-Seqをアセンブルしたところそれぞれで約10万コンティグを得た。タウリン合成酵素(CDO1、CSAD、ADO、GAD1)や硫黄代謝(SDO、ST、SQR)に関与する遺伝子の類似配列をGenBankより引用し、コンティグをデータベースにしたlocal blastで検索したところ、類似配列が検出された。また、他の代謝系についてもマッピングを行ない、アミノ酸代謝等の経路を調べたところ、以前実施したアミノ酸分析で得られた結果と矛盾しなかった。これらの結果から、深海性多毛類はこれまで他の生物で報告されてきた既存の機構で深海の極限環境に適応している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度はサンプリングの機会を得たが、潮流の関係で無人探査機の海底作業時間が短く、さらに深海性多毛類が多量に生息するポイントで作業ができなかったため、硫化物曝露実験等に用いるほどの個体数を確保できなかった。したがって、アミノ酸分析を実施することができなかった。しかし、多毛類が生息している水温および硫化水素濃度を取得した。また、深海性多毛類のゲノム情報は乏しいが、次世代シーケンサによるRNA-Seqを実施したことにより、アミノ酸合成や硫黄代謝に関与する遺伝子の発現の有無を網羅的に解析することが可能となった。GenBankで検索した結果、タウリン合成酵素4種、硫黄酸化酵素(SDO)に類似した配列が存在しているため、クローニングによりcDNAの単離を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度もサンプリングの機会があるため、マリアナイトエラゴカイおよびウロコムシ類を採集する予定である。採集したサンプルは短時間の硫化物曝露実験を実施し、アミノ酸分析に供し、チオタウリン合成量が変化するか検証する。また、単離したタウリン合成酵素や硫黄代謝遺伝子のcDNAからTaqManプローブを設計し、硫化物曝露実験に用いた個体からRNAを抽出し、リアルタイムPCRによる遺伝子発現定量を実施する予定である。さらに、次世代シーケンスによるRNA-Seqの検体数を増やして硫化物曝露群と非曝露群で網羅的な発現定量を行なうことで、タウリン合成酵素や硫黄代謝酵素以外に硫化水素に適応するために必要と考えられる遺伝子をスクリーニングしたい。そして浅海性多毛類についても同様の解析を行ない、最終的に深海と浅海での比較をすることにより硫化水素無毒化の普遍性について考察していく予定である
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は深海性多毛類のサンプリングの機会を得たが、現場の海況が悪くアミノ酸分析や遺伝子発現定量を行なううえで必要な個体数を確保することができなかった。そのため、これらの分子生物学的・生化学的分析で使用する予定であった試薬代や消耗品代の支出がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に再び深海性多毛類のサンプリングの機会が得られたこと、他機関からサンプルの入手が可能となったことから、平成28年度中に各種分析の支出が発生することが見込まれる。したがって、研究費はサンプリングや他機関への打ち合わせ、学会発表に係る旅費、平成27年度に得たRNA-Seqのデータに基づくcDNAクローニング、リアルタイムPCR、アミノ酸分析に係る試薬および消耗品の購入のために使用する。また、次世代シーケンサによるRNA-Seqをサンプル数を増やして比較するため、次世代シーケンスの受託代として使用する予定である。
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