雌親の振動によって胚の孵化が誘導されるフタボシツチカメムシ、ミツボシツチカメムシ、ベニツチカメムシについて、胚の孵化を誘導する振動をレーザードップラー振動計により測定し、振動の物理的性質を解析した。いずれの振動も500Hz以下の低周波領域で強く加振するが、種によって全く異なる規則性をもつ波形パターンを示すことが明らかになった。各種雌親の振動を分子系統樹にプロットし系統比較解析を行った結果、ホシツチカメムシ亜科に属するフタボシツチカメムシとミツボシツチカメムシは極めて類似した性質をもつが、ベニツチカメムシ亜科に属するベニツチカメムシはこれらとは大きく異なる性質をもつことが示された。各種の胚は、同種雌親の波形パターンに最も強い孵化応答を示した。また、ツチカメムシ科のなかでも社会性をもたないツチカメムシとヨコヅナツチカメムシ(ツチカメムシ亜科)の胚は、先に孵化した同種幼虫の振動刺激により孵化が顕著に促進された。幼虫由来の振動の波形パターンには規則性がみられなかった。 以上の結果から、ツチカメムシ科の胚は一般に振動受容能を有しており、胚をとりまくそれぞれの生物的環境から得られる振動に適合した孵化システムを獲得したと考えられる。社会性を持つ種では振動が規則的な波形パターンを示し胚の孵化応答もそれに強く依存している一方で、社会性をもたない種では不規則な波形パターンでも胚の孵化が誘導されることから、社会性の進化に伴い孵化コミュニケーションのシグナルとしての波形パターンが構築された進化プロセスが予想される。
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