研究課題/領域番号 |
15K18624
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
葛西 厚史 弘前大学, 農学生命科学部, 研究員 (80633982)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エピゲノム編集 / GrIGSシステム / 接ぎ木 |
研究実績の概要 |
“接ぎ木” 栽培技法と “RNAの篩管長距離輸送性” を活用した新規の品種改良技術となるGrIGS(Graft-induced Gene Silencing)システムを開発した。本研究課題では栄養繁殖性作物のジャガイモに対し、GrIGSシステムよりエピジェネティックな修飾誘導を実行し、ターゲット遺伝子が転写型遺伝子サイレンシング(TGS)を起動したエピゲノム編集体作出を試みた。生遺伝子を用いたモデル実験から実際の育種現場に向け、内生遺伝子をターゲットとする有用形質の付与(低温糖化抑制とアミロース含量低下)へと展開した。 外生遺伝子35S:GFP導入ジャガイモを用いたモデル実験により、ジャガイモでのシステムの確立を行った。さらに、ジャガイモ固有の技術として、MT(マイクロチューバー)として直接エピゲノム編集体を獲得する方法も確立できた。また、得られたエピゲノム編集体におけるメチル化修飾の安定性についてMTを用いて確認したところ、少なくとも次代においても維持されていることが判明した。 続いて、内生遺伝子(①デンプン組成に関わるStGBSS遺伝子・②低温糖化現象に関わるStVinv遺伝子)をターゲットとしたエピゲノム編集体獲得を行った。各遺伝子プロモーター領域由来のsiRNAsを産生する形質転換ジャガイモの解析から、当該領域へのメチル化誘導によりターゲット遺伝子のmRNA量の減少が確認された。したがって、作製コンストラクトによるターゲット遺伝子へのTGS発動を確認できた。そこでこれらのエピゲノム編集体獲得に向けて、各siRNAドナータバコ系統とジャガイモ品種“ワセシロ”との異種間接ぎ木を行った。現在、これらの接ぎ木個体から根の再分化とMT誘導によりエピゲノム編集体を次々獲得している。今後、これらを用いてメチル化度の安定性および強弱と表現型との相関性など詳細に調査していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの経験とエピジェネティック現象に関わる新規の情報を基に改変を重ねていくとともに、研究協力者である原田竹雄名誉教授(弘前大学)とも議論を重ね適切な実験を遂行した。得られた成果は学会などで発表し、論文にまとめて投稿中である。 一方で、エピゲノム編集ジャガイモの圃場栽培については、大学から文部科学省および環境省に相談の形で伺ったところ、その取り扱い方から慎重な対応を求められている。必要な情報・状況を提供し、一刻も早く圃場栽培試験を行いたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本技術により得られたエピゲノム編集体について、その当該形質(デンプン組成および低温糖化性)を調査し有用性を検討する。また、そのエピジェネティックな状態の安定性について、隔離温室内で作出した塊茎でのDNAメチル化状態などを分子遺伝学的解析により評価する。この過程を数回繰り返し、クローン増殖した塊茎での形質を評価する。この技術および獲得したエピゲノム編集体の実用化・事業化に向けた取り組み(主に圃場栽培化など)も検討していきたい。 さらに、本技術のアップデートとして、以下の3点についても検討し、効率化を図っていく。 1)DNAメチル化誘導の効率化。ターゲット配列のDNAメチル化程度の強弱とターゲット遺伝子の抑制には相関が示されることから、ターゲット遺伝子によってはより強力なDNAのメチル化誘導が必要と思われる。これについては、これまでの接ぎ木実験での経験から切り戻しなどを行いシンク-ソースの単純化により輸送されるsiRNAs量を増やすことで対処できると思われる。 2)スタック(複数遺伝子の重ね合わせ)への応用。得られたエピ変異体とドナータバコと2度目のヘテロ接ぎ木を行うなど複数回誘導する手法も考えられる。これは、一つの品種に複数のエピゲノム編集誘導による形質付与として発展しうる方法であるため取り組む必要があると考えている。 3)ジャガイモでの同種接ぎ木によるGrIGSシステム。現在は、形質転換容易なタバコをドナーとして利用しているが、ジャガイモ同士の接ぎ木によるGrIGSシステムについても実験を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
もともと、得られた成果を論文にする際の校正料及び掲載料として計上していたものであり、当初予定していた投稿先の掲載料を元に計上した額である。しかし、投稿先に拒否されたため新たにデータを追加するなどしたため当初の計画とは異なった使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、新たにデータを追加した状態で当初とは異なる雑誌に論文を投稿中であり、掲載料として使用できればと考えている。しかし、掲載料は当初の計画より安くなるため、さらなるデータを取得するためその一部を物品費として使用することも計画している。
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