作物にとって深根性は、干ばつ時に土壌深層の水を獲得する上で重要な形質である。これまでに申請者の研究クループでは作物で初めて根伸長角度に関する遺伝子DRO1を単離・同定し、DRO1は機能型で深根となることでイネの干ばつ回避能力を高めることがわかった。根系改良によるさらなる干ばつ回避能力の向上のため本研究課題では、新奇な根伸長角度遺伝子qSOR1の単離と機能解析、およびDRO1の遺伝経路上にあると推察されるDRO3のマッピングを通して、イネの根伸長角度に関する遺伝機構の解明を目指す。前年度までの解析によりqSOR1については遺伝子単離および発現部位の特定に至っており、またDRO1とは独立した遺伝的経路上で根伸長角度を制御していることが明らかとなった。また、DRO3はファインマッピング用に組換え固定系統の材料育成を進めた。 本年度、qSOR1は複数の双子葉植物種においてそのホモログが重力屈性に関与しており、アミノ酸配列のC末端の保存領域が重要であることが報告された。イネqSOR1にもこの保存領域は存在するため、該当配列を欠失させたcDNA配列をqSOR1プロモーターに連結したコンストラクトを浅根であるqsor1-NILに導入した形質転換体を作製し、その表現型を観察した。その結果、完全長cDNA配列をqsor1-NILに導入した系統では根伸長角度がゲノム相補系統と同レベルに回復したが、欠失系統ではqsor1-NILの根伸長角度を回復させることができなかった。したがって、この保存配列がイネの根伸長角度制御においても重要であることが示された。DRO3に関して、ファインマッピング用組換え固定系統作製を完了しマッピングを行ったが、DRO3候補領域の絞込みはできなかった。これはDRO3近傍に座乗する根伸長角度を浅くする因子の影響を排除することができなかったためと考える。
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