研究課題
植物は、野外で無数の微生物と相互作用しているが、その相互作用に何らかの生態生理学的な意義があるかについては殆ど明らかではない。研究者は、自然環境で生育するシロイヌナズナから分離された糸状菌Colletotrichum tofieldiae(以下Ct)が、シロイヌナズナの根から植物に病徴を引き起こすこと無く感染する内生糸状菌であることを明らかにした。Ctは、リン欠乏条件において植物生長を促すことを発見した。放射性同位体33Pを用いて菌糸からのリン酸輸送をモニターしたところ、Ctは、リン欠乏条件において宿主植物へとリン酸を輸送することが判明した。一方で、リンが豊富に存在する条件では、リン酸を輸送しなかった。以上の結果から、Ctによるリン酸輸送及び植物生長促進は、リン酸濃度依存的であることが判明した。Ctが感染した根におけるトランスクリプトームをRNAseqで調査したところ、特定のリン酸トランスポーターの誘導がCt感染時に誘導されることが判明した。さらには、シロイヌナズナのリン枯渇条件における適応反応を司る転写因子PHR1とPHL1がCtによる植物生長促進効果に必要であることが判明した。最後に、Ctと植物との共生的相互作用に、植物のトリプトファン由来の二次代謝産物が必要であり、二次代謝物が欠損するとCtが病原菌化することが判明した。
1: 当初の計画以上に進展している
課題であったCtによるリン酸輸送を33Pを用いた実験により証明できた。また、Ctによる植物生長促進効果に必要な植物因子をシロイヌナズナを用いた変異体解析より同定した。次年度も通じて、これらの成果を得る計画だったため、初年度のうちに達成したことは当初の計画以上に進展していると言ってよい。
Ctが根に感染中のリン酸トランスポーター等の共生マーカーの挙動の細胞生物学的解析を行う。今回共通性が認められた菌根共生との仕組みとの共通性・相違性を明らかにするため、ストリゴラクトン等の菌根共生に必要な因子がCtのシロイヌナズナへの感染及び植物生長促進に必要であるかを調査する。さらには、Ctによる植物生長促進に必要な植物因子のさらなる同定を進める。
一部のRNAシークエンス解析の実験を次年度に持ち越したため。
RNAシークエンス解析の実験に用いる予定である。
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Cell
巻: 165 ページ: 464-474
doi: 10.1016/j.cell.2016.02.028.
Nature Communications
巻: in press ページ: in press
DOI: 10.1038/ ncomms11362
http://first.lifesciencedb.jp/