研究課題
アワしらが病は、卵菌類の一種(Sclerospora graminicola (Sacc.) Schroet.)によって引き起こされるアワの重要病害である。しらが病菌に感染したアワは生育不良となり、穂では特徴的な葉化病ちょうが誘発される。この表現型の変化には病原菌が生産するエフェクター等の関与が考えられるが、詳細はほとんど研究されていない。本研究では、しらが病菌の全ゲノム解読およびトランスクリプトーム解析を行い、しらが病菌が分泌するエフェクターを同定・解析することにより、葉化病ちょうの発病機構の解明を最終目標とする。平成28年度は、前年度得られたRNAseq解析の結果からエフェクター候補の解析を行った。エフェクター候補のうち、卵菌類に特有のRXLRモチーフを持ち、感染時に発現が確認されたタンパク質遺伝子について、過剰発現イネ植物を作出して機能評価を行った。現在までに、生育の亢進、生育抑制、細胞死の誘導といった表現型が得られている。しらが病菌と他の卵菌類との比較ゲノム解析を行った結果、しらが病菌ゲノムには、Jacalin様レクチンドメインを含むタンパク質が多くコードされていることが明らかとなった。さらにその多くがN末端に推定の細胞外分泌シグナルをもち、アワ葉感染初期に発現が誘導されていた。以上から、Jacalin様レクチンドメインを持つタンパク質はしらが病菌の感染初期に機能する可能性が考えられた。前年度、植物側のRNAseq解析から罹病穂で顕著な発現増加が認められたSiMADS47のプロモーター領域をクローニングし、レポーターとしてルシフェラーゼ遺伝子を連結したキメラ遺伝子を作製し、イネに導入して形質転換培養細胞を作出した。これを材料とし、SiMADS47プロモーター活性に作用するしらが病菌因子のスクリーニングを開始した。
2: おおむね順調に進展している
NGS解析の結果を基盤としてエフェクター候補因子の解析に用いる材料の作出および解析を開始した。また、比較ゲノム解析から、しらが病菌に特徴的なJacalin様レクチンドメイン遺伝子を見出した。
Jacalin様レクチンドメインタンパク質遺伝子は、感染初期に発現が多く認められることから、病原性因子として機能する可能性が考えられた。そこで、感染初期に誘導されるプロモーターの制御下でいもち病菌に発現させ、病原性の機能解析を行う。また、いくつかの病原性エフェクターはPAMP応答を抑制することが報告されているため、ベンサミアーナタバコ葉に一過的に発現させ、flg22によるROS生成等のPAMP応答に対する影響を評価する。SiMADS47プロモーター:ルシフェラーゼを導入した、イネ培養細胞を使い、クローニングされたしらが病菌エフェクター候補のうち、SiMADS47プロモーター活性を解析し、その発現変化でスクリーニングを行う。エフェクター候補の機能解析の機能解析の一環として、イネ形質転換体による表現型の評価を行っているが、今のとこ、穎花の形態変化をもたらす結果は得られていない。そこで次年度では新たにアワのEMSラインを作出し、穎花の形態変化がなくなるような変異体のスクリーニングの材料を整備する。
論文投稿が年度をまたいだため、繰越し金が生じた。なお、投稿論文はほぼ仕上がっており、近日中に投稿予定である。
英文校閲および論文投稿料として使用する。
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