研究課題/領域番号 |
15K18660
|
研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
上野 大勢 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 准教授 (90581299)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | マンガン / イネ / 輸送体 / CDF |
研究実績の概要 |
本研究はイネのマンガン(Mn)恒常性を包括的に理解することを目的とする.平成28年度は初年度までに単離したCDFファミリーに属する輸送体MTP8.1/8.2とMTP11に関して詳細な解析を行った。 MTP8.1/8.2は共に液胞膜に局在し、イネのMn耐性に大きく寄与することを昨年度までに明らかにしている。MTP8.2発現抑制株ではMn過剰に応答して、3時間以内にMn吸収が大きく低下するが、これはMn毒性を回避するための有効な手段だと考えられた。そこで、本年度はこの迅速なMn吸収抑制のメカニズムを明らかにするために、Mn吸収に関与すると考えられる複数の輸送体の発現を調べた。その結果、MTP8.2発現抑制株のうち、特に発現レベルの低い株において、MnおよびFeの吸収に関わるNRAMP5やIRT1の発現が、野生株に対して低下することが分かった。さらに、これらの遺伝子の発現制御に関わるFe欠乏応答性の転写因子の発現も減少していた。シロイヌナズナのatmtp8.2欠損株においては、Mn過剰によって拮抗的にFeの輸送が阻害されるため、イネとは逆にFe欠乏応答性遺伝子が高発現することが最近報告された。今回の実験結果は、イネにおけるMn過剰の応答がシロイヌナズナのそれとは異なることを示唆している。 MTP11はゴルジ体への局在が示唆されるホモログである。本年度は、シロイヌナズナのatmtp11欠損株にAtMTP11プロモーターと接続したイネのMTP11遺伝子を導入することにより、同輸送体の機能の推定を試みた。その結果、Mn過剰条件において,atmtp11は野生株より顕著に生育が阻害されたのに対して,MTP11発現株では野生株と同程度まで生育が改善した。このことは、イネのMTP11がAtMTP11と同様の機能を有することを示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度解析した遺伝子は、当初予定していた方法により選抜したものではないが、イネのマンガン恒常性においては重要な役割を持つことが明らかになってきた。また、解析を進める中で、マンガン過剰に対する迅速な初期応答の一端を発見できた。一方で、計画性や技術の問題によって二重変異株の作成が遅れ、それを使った実験に着手できておらず、論文の発表に至らなかった点は反省すべきである。
|
今後の研究の推進方策 |
マンガン過剰に対する初期応答に関する結果を検証し、さらに詳細な解析を行うために、MTP8.1とMTP8.2の二重欠損株を交配により作成する。また、MTP11欠損による表現型が現れないのは、MTP8.1による高効率なマンガン無毒化が影響していると考えられた。そのため、MTP11とMTP8.1の二重欠損株も作成する。何れの欠損株についても、現在F2植物を栽培中である。 両欠損株が得られたら、マンガン過剰に対する初期応答である“鉄欠乏誘導性遺伝子の発現抑制”を確認したのちに、野生株、mtp8.1変異株、mtp8.1/8.2二重変異株、mtp8.1/11二重変異株それぞれの遺伝子発現を網羅的に解析し、マンガン恒常性の全体像を推定していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
各種キットを安価なものへ変更したり、キャンペーンなどを有効に利用し、経費を削減できたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
各種キットの追加購入や、発現解析の委託費、ならびに論文の校閲費として使用する。
|