本研究はイネのマンガン(Mn)恒常性を包括的に理解することを目的としてきた.一部のMn輸送体が転写後修飾によりタンパク質レベルが調整される現象が観察されたため,ポリソーム解析を介した未同定のMn恒常性に関わる遺伝子の単離を試みたが,指標とする輸送体の変動を確認できなかった.その一方で,様々な組織で働くCDFファミリーに属する輸送体3種(MTP8.2/9/11)がMn恒常性に重要な役割を果たすことを明らかすることができた.本年度はノックアウト株の解析等を通じ,MTP11の役割の全容解明を試みた. まず,MTP11の発現部位と細胞内局在を調べた.MTP11は栄養生長期においてMn濃度の高い下位葉で高発現していた.また,生殖生長期には穂および果柄でも構成的に高発現していた.次に,イネプロトプラストにおいてMTP11:GFPを一過的に発現させたところ,GFPのシグナルはトランスゴルジマーカーであるKAM1ΔC:RFPとST:RFPのシグナルと一致したが,他のゴルジ関連マーカーとは一致しなかった.続いて,独立した2つのMTP11欠損株を用いてMn耐性・集積性への影響を調べた.水耕栽培でMn過剰処理を施したところ,MTP11欠損株の生育は野生株と同程度阻害され,欠損による影響は見られなかった.そこで,Mn耐性の中心的な役割を担うMTP8.1との二重破壊株を作成し,同様に検討したところ,地上部と根共に著しいMn毒性が現われ,親株に対し生育が大きく低下した.これに対し,二重破壊株はMn以外の重金属には感受性を示さなかった.さらに,MTP11欠損により子実収量と登熟歩合が約30%低下した. 以上の結果から,MTP11が全生育期間を通じ,Mn恒常性と収量の維持に貢献していることが明らかになった.
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