研究課題/領域番号 |
15K18662
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
菅野 学 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 主任研究員 (10462847)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 微生物 / 放線菌 / 生物共生 / 植物共生細菌 / 肥料 / 水素 |
研究実績の概要 |
本研究は、イネの体内から分離したStreptomyces属放線菌株の生物肥料としてのポテンシャルに関する基盤的知見を獲得することを目的とする。実施2年目にあたる当該年度は以下の研究を行った。 1. 窒素固定能の検証:当該菌株は窒素源を含まない培養液中で何世代も安定的に増殖することを確認しているが、安定同位体比質量分析により菌体中の重窒素(15N)の同位体比を解析したところ、有意な窒素の取り込みは見られなかった。したがって、当該菌株は空中窒素の利用能は有しておらず、極度に限られた窒素存在下でも増殖する別の機構を持つ可能性が考えられた。 2. ゲノム情報を基盤とした水素酸化遺伝子破壊株の作製:当該菌株は大気水素を酸化する特異な能力を有する。昨年度に獲得したドラフトゲノム情報から、当該菌株は高親和性ヒドロゲナーゼ遺伝子をゲノム中に1コピー持つことを明らかとした。そのシーケンス情報を参考に、昨年度に入手したStreptomyces属放線菌のゲノム編集用CRISPR-Cas9ベクターを用いて、ヒドロゲナーゼ遺伝子の小サブユニットと大サブユニットを欠失した遺伝子破壊株を作製した。ガス分析によって、破壊株は水素酸化活性を完全に喪失したことを確認した。 3. 遺伝子破壊株の植物接種試験と生理学的試験:土耕栽培試験により、当該菌株はイネおよびシロイヌナズナの地上部および根の長さや乾燥重量を増大させることを確認している。一方、水素酸化能を欠失した遺伝子破壊株では、野生株と比較してこの生育促進効果の低減が見られた。植物の生育促進に関連する既知の生理学的特性を野生株と破壊株で比較したところ顕著な違いは見られず、他の要因が考えられた。 次年度は、Streptomyces属放線菌が宿主植物の生育に及ぼす正の効果と水素酸化能の関係性について、そのメカニズムの解明に取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に準備した研究素材・情報・経験を活用して、研究計画の見直しなど柔軟な対応を行いながら、「遺伝子工学実験」「植物接種試験」「生理学的試験」といった異なる実験を同時並行的に推進し、新知見を獲得した。
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今後の研究の推進方策 |
安定同位体比質量分析の結果から、本研究の試験菌株が空中窒素を利用しない可能性が示唆された。Streptomyces属放線菌で窒素固定が唯一報告されていたStreptomyces thermoautotrophicusが空中窒素を利用できていないことが科学誌Scientific Reportに今年報告されており、本研究結果を指示するものである。そこで、昨年度のゲノム解析情報や入手ベクターを有効に活用して、当初の研究計画を見直し、窒素固定ではなく空中水素の利用能と植物生育促進の関係性に着目した研究にシフトしている。引き続き本研究課題にかかる実験に専念することで、大気水素酸化がStreptomyces属放線菌の生物肥料としてのポテンシャルに及ぼす影響について研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の見直しを行い、比較トランスクリプトームの委託解析等を実施しなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、当初の予定通り、実験試薬やガスボンベ等の消耗品費や委託解析費、および国内外の学会参加旅費等に使用する。研究の進展状況に応じて柔軟に使用し、助成期間内に全て使用予定である。
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