本研究は、イネの体内から分離したStreptomyces属放線菌株の生物肥料としてのポテンシャルに関する基盤的知見を獲得することを目的とする。昨年度の結果から、対象菌株が空中窒素を利用しない可能性が示唆されたため、当初の研究計画を見直し、窒素固定ではなく空中水素の利用能と植物生育促進の関係性に着目した研究にシフトした。最終年度は以下の研究を実施した。 1. 水素酸化遺伝子の発現レポーター株の作製:対象とするStreptomyces属放線菌株の高親和性ヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター下流にGFP遺伝子を部位特異的に挿入した組換え体を作製した。人工培地中で、胞子でのみGFP蛍光が観察され、菌糸体では蛍光が検出されず、放線菌の形態分化と水素酸化活性の関連が示唆された。 2. 植物共生時の水素酸化能の検証:無菌土耕栽培したイネの土壌部分に発現レポーター株を接種したところ、接種4週間後に植物に局在する主に胞子でGFP蛍光が観察された。微生物が共生した植物では、フィールドの観測報告値と同等の水素酸化活性が確認された一方、無菌植物では水素の減少が全く見られなかったことより、植物に共生するStreptomyces属放線菌の胞子によって大気水素が消費されると考えられた。 3. 大気水素酸化と植物共生の関係性の検証:高親和性ヒドロゲナーゼ遺伝子の破壊株と野生株の植物体での生細胞数を経時的に調べた結果、接種4週間後に破壊株はイネ体内から完全に消失した。当該菌株と植物との共生関係の維持に大気水素の取り込みが寄与すると考えられ、植物への定着率の減少によって植物生育促進効果が低減したと推察された。 以上より、本研究は、大気水素酸化がStreptomyces属放線菌の生物肥料としてのポテンシャルに関与する可能性を初めて示した。
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