研究課題/領域番号 |
15K18663
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
竹下 典男 筑波大学, 生命環境科系, 助教 (20745038)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 糸状菌 / Aspergillus / アクチン / 微小管 / 極性 |
研究実績の概要 |
当初の予定通り、糸状菌Aspergillus nidulansにおいてアクチンケーブルを可視化するため、GFP付加したトロポマイオシン(以下、TpmAと呼ぶ)またはアクチン結合タンパク質由来の17アミノ酸であるLifeactを発現する株を作成した。それぞれの表現型、菌糸先端におけるアクチンケーブルの挙動(長さ、重合速度、脱重合速度、重合頻度)を初めて定量化することに成功した。その結果、GFP-TpmAは正常なアクチンケーブルを可視化していること、GFP-Lifeactはその発現量によりアクチンケーブルを安定化することが示された。アクチンケーブルを重合するフォーミと呼ばれるタンパク質の局在を制御する因子として、cell end markerが知られていた。GFPとmCherryの組み合わせにより、cell end markerとアクチンケーブルの重合端が共局在することが示され、cell end markerがアクチンケーブルの局在を制御するという従来のモデルが支持された。アクチンケーブルと微小管の相互作用とそれぞれの重合化制御の関係を解析した。GFPとmCherryの組み合わせにより、アクチンケーブルと微小管を可視化し、超解像顕微鏡を用いてそれぞれの相互作用を可視化した。その結果、菌糸先端に向かって伸長する微小管の重合端と菌糸先端から重合するアクチンケーブルの脱重合端の短い距離(1マイクロメーター以下)のオーバーラップが見られた。さらにスピニングディスク型共焦点顕微鏡を用いて高速イメージングを行い、それぞれのダイナミックな重合-脱重合の様子を観察した。その結果、微小管が菌糸先端に向かって伸長する際、アクチンケーブルが脱重合を起こし、逆に微小管が菌糸先端から脱重合を起こす際、アクチンケーブルが菌糸先端から重合化することが示された。この結果は、微小管とアクチンケーブルのそれぞれの重合-脱重合の制御が協調的に行われていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、アクチンケーブルのダイナミクスを定量化することに成功した。また、アクチンケーブルの重合端とcell end markerとの共局在を示した。さらに、アクチンケーブルと微小管の相互作用、重合制御の関係を明らかにした。これらの結果をまとめた論文を作成し、Fontiers in Microbiologyに受理された。 Title: Dynamics of actin cables in polarized growth of the filamentous fungus Aspergillus nidulans. Authors: Anna Bergs, Yuji Ishitsuka, Minoas Evangelinos, G. Ulrich Nienhaus, Norio Takeshita
まだ達成できていない点として、分泌小胞がアクチンケーブル上を輸送されるかという点が明らかにされていない。アクチンケーブルを脱重合する薬剤を使用した実験で、アクチンケーブルが分泌小胞の輸送に関わることは知られているが、それぞれを可視化し、分泌小胞がアクチンケーブル上を輸送される様子を示す予定であるが、まだ成功に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、GFPとmCherryの組み合わせにより、分泌小胞とアクチンケーブルを可視化し、分泌小胞がアクチンケーブル上を輸送される様子をイメージングすることを目指す。スピニングディスク型共焦点顕微鏡を用いた高速イメージングにより、達成を目指す。問題は、菌糸先端付近における分泌小胞の蛍光のバックグラウンドが高いことである。そのため、蛍光の色が変化する蛍光タンパク質mEosを分泌小胞の可視化に用いて、菌糸の一部分だけに蛍光を変化させる波長のレーザーを当て、その変化した蛍光を追跡することで、バックグラウンドが低い中で分泌小胞の輸送を明らかにする予定である。その実験系とアクチンケーブルの可視化を組み合わせることで、分泌小胞がアクチンケーブル上を輸送される様子をイメージングすることを目指す。 アクチンケーブルと微小管の重合-脱重合の制御が協調的に行われていることなどから、菌糸の先端生長のいくつかのプロセスが協調的に行われているというモデルを提唱した。Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry Title: Coordinated process of polarized growth in filamentous fungi Author: Norio Takeshita そのモデルにおける各プロセスとして、微小管の菌糸先端への到達、極性部位の確立、微小管の脱重合、アクチンケーブルの重合、分泌小胞の微小管からアクチンケーブルへの乗り換え、分泌小胞の極性部位でのエキソサイトーシス、菌糸の伸長、小胞膜の形質膜への挿入による極性部位の消失があり、次の微小管の菌糸先端への到達により次のサイクルへ進行する。このモデルを検証するため、アクチンケーブルの重合化と分泌小胞の輸送の関係、アクチンケーブルの重合化と菌糸伸長速度の関係、さらに細胞内のカルシウムイオン濃度との関係を解析していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定ほど顕微鏡関連の設備費用とランニングコストがかからなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
顕微鏡関連の設備の充実をはかり、マイクロデバイスの設計や、一般試薬、プラスチック器具などの消耗品に使用する。
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