枯草菌のグリセロ糖脂質合成酵素UgtPは、ジアシルグリセロールにUDP-Glcを用いてグルコースを段階的に転移するグルコシルトランスフェラーゼである。UgtPによって合成されるモノ、ジ、トリジアシルグリセロールは細胞膜の約10%を占める。ugtP破壊株は、細胞が太く短くなり、ECFシグマ因子(SigM、SigV、SigX)の脱抑制が見られた。ugtP破壊によって、細胞に様々な影響が見られることから、糖脂質が枯草菌細胞で重要な役割をしていることが示唆された。 はじめに、細胞形態に重要な糖脂質分子種を明らかにするため、Acholeplasma laidlawii由来の糖脂質合成酵素遺伝子(mgs:モノジアシルグリセロール合成酵素遺伝子、dgs:ジグルコシルジアシルグリセロール合成酵素遺伝子)を枯草菌糖脂質欠損に導入した。その結果、mgsの導入で形態異常が回復し、ECFシグマの活性化が抑制された。また、糖脂質欠損時にはアンチシグマの分解は見られなかったことから、糖脂質がアンチシグマの機能を補助していることが示唆された。 ジグルコシルジアシルグリセロールは枯草菌の細胞外マトリックスであるリポテイコ酸合成の基質(膜アンカー)であることから、糖脂質欠損とリポテイコ酸欠損時におけるECFシグマの活性を解析したところ、二つの欠損がECFシグマの活性化に相加的に働くことを明らかにした。また、糖脂質を欠損すると、LTAの構造が変化することが示唆された。 枯草菌の細胞形態維持には、二成分制御系WalK-RとSigIが協調的に働くことが報告されている。これら因子の制御における糖脂質の影響を解析したところ、糖脂質の欠損で、WalR-KとSigIの活性が上昇することを明らかにした。
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