研究課題/領域番号 |
15K18665
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
矢野 大和 筑波大学, 生命環境系, 研究員 (20646773)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | メチローム / ゲノム |
研究実績の概要 |
DNAメチル化酵素を用いて微生物の形質を操作する技術の基盤を確立することを目指している。これまでに、微生物のDNAメチル化がトランスクリプトームに影響を与える仕組みを解析するため、モデル実験材料としてピロリ菌ヨーロッパ株を使用してきた。これまでに構築したメチル化酵素遺伝子ノックアウト株のトランスクリプトームデータをまとめて比較し、ピロリ菌内に複数の配列特異的メチル化系からなる遺伝子発現ネットワーク(エピジェッネティックネットワーク)があることを発見した 。本年度はcytoscapeなどのツールを利用して、ネットワークを可視化する手法を確立した。想定の範囲内ではあったが、ゲノム内に標的配列が少ないメチル化系はトランスクリプトームにほとんど影響を与えないことが判明した。その情報は Zhang et al. Nucleic Acids Res 2016に発表した。
シトシンメチル化が微生物の転写と形質に与える影響を解明するための基盤情報を得るため、シトシンメチル化系を多数保有するピロリ菌日本株のメチローム解析と、ピロリ菌日本株を用いた分子遺伝学実験にチャレンジした。その結果、全ゲノムバイサルファイトシーケンシグによる5mCメチル化検出に成功し、シトシンメチル化がピロリ菌日本株に存在しているという実験的証拠を得た。さらにピロリ菌日本株を用いた遺伝子ノックアウト法の確立に成功した。これにより、これまでに未開拓であった 5mCメチル化が微生物の適応進化に与える仕組みの解明へ向けて、道が開けるとともに、微生物育種の材料としてシトシンメチル化酵素も考慮する必要があることが判明した。
微生物育種に利用できる新規配列特異的メチル化酵素を探索するため、鳥結核菌のゲノムを対象としてメチル化系の情報学的検索を行い、新規I型メチル化系、新規II型メチル化系を発見している。内容の一部を2017年度ゲノム微生物学会年会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで、ゲノムが保有する配列特異的メチル化系の数が比較的少ないピロリ菌ヨーロッパ株に関してのトランスクリプトーム情報を集積し、トランスクリプトームに大きな影響を与えるタイプのメチル化系、影響を与えないタイプのメチル化系が見えつつある 。しかし、これらの研究はアデニンメチル化酵素を対象にした研究であり、高等生物と原核生物の両方に保存されているシトシンメチル化についての研究は未着手の状態で残されていた。本年度微生物のシトシンメチル化についての研究基盤を構築するため、シトシンメチル化系を多数保有するピロリ菌日本株のメチローム解析と、ピロリ菌日本株の分子遺伝学実験にチャレンジした。予想に反して遺伝子操作が可能なピロリ菌日本株を見つけることが困難であった。しかし、ある株に対してはそれが実施可能であることが判明した。今後はこのモデル株を用いて、これまでに確立した実験手法および情報学的解析法を駆使して、メチローム、 トランスクリプトーム、形質情報を得る予定である。シトシンメチル化のメチローム情報やその意義を解析するためのツールの収集には成功している。
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今後の研究の推進方策 |
ピロリ菌ヨーロッパ株のトランスクリプトーム情報から得られた「エピジェネティックネットワーク」に関しては、これまでにあるデータと概念をまとめて論文として投稿することを予定している。 可動遺伝因子由来のメチル化系を導入した大腸菌のトランスクリプトームデータを多角的に解析し、表現型の変化に関しての手がかりを得る。その情報をもとに実験を実施し、データと概念をまとめた論文を投稿する。 鳥結核菌のゲノムを対象として、メチル化系の情報学的検索を行って得られた結果の一部は、論文として投稿中である。 ピロリ菌日本株のメチローム情報は、それを基盤とした次の研究計画に役立てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表者の転勤があり研究が一時的に中断されたことが大きい。その上モデル生物として新しく取り入れたピロリ菌日本株を用いた遺伝学実験の確立に予想外の時間がかかったことが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
構築予定のメチル化酵素配列特異性決定遺伝子変異体の数が予定数に達していないのため、研究計画を見直し、次世代シーケンサーを用いた一部の受託解析を次年度に行うことにした。その結果を踏まえ、現在作成中の草稿の内容を見直し、次年度に論文を投稿する予定である。
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