研究課題
環境中の99%以上の微生物は,現在の技術では培養が困難な微生物(難培養性微生物)とされている.難培養性微生物が産生する酵素は,新たな酵素資源として大きな可能性を秘めている.そこで本研究では,環境中に豊富に存在する酵素資源への効率的なアクセスを実現する方法として「液滴を利用した微生物培養を介さない酵素遺伝子取得法」を確立し,それを実践することを目的とした.平成27年度は,以下の項目に取り組んだ.(1) 液滴を利用した微生物培養を介さない酵素遺伝子取得法の要素技術の確立液滴を利用した微生物培養を介さない酵素遺伝子取得法の要素技術の確立・最適化に努めた.その結果,「マイクロ流体デバイスを用いて微生物を一細胞単位でWater-in-oil(W/O)型液滴に封入すること」,「標的とする酵素活性を示す微生物を一細胞単位でスクリーニングすること」,「W/O型液滴から回収した微生物のゲノムをMultiple displacement amplification法により高効率に増幅すること」を実現した.(2) 液滴を利用した微生物培養を介さない酵素遺伝子取得法の実践本手法の原理実証実験として,海水中の微生物由来β-グルコシダーゼ遺伝子の取得を試みた.表層および深海の海水をβ-グルコシダーゼの発蛍光基質とともに液滴に封入したところ,微生物全体のうち数%が蛍光を発した.蛍光性の微生物を9種回収し,6種のゲノムを増幅することに成功した.ゲノム増幅産物の16S rRNA遺伝子配列に基づく解析から,いずれも過去に培養されていないバクテリアであると推定された.これらの増幅産物のシークエンス解析を行い,14種類のβ-グルコシダーゼ遺伝子を同定することに成功した.以上の成果は,Scientific Reports誌に掲載された.
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画より早く「液滴を利用した微生物培養を介さない酵素遺伝子取得法」を確立することができた.またこれを利用して,海水中の未培養バクテリア由来β-グルコシダーゼ遺伝子を多数取得することに成功した.これにより,本手法の有用性・実用性が実証された.
本手法を利用して,海水,湖水,池水などに生息する微生物が産生する糖質加水分解酵素遺伝子の取得し,その産物の活性を評価する.高い活性を有する酵素が得られれば,進化分子工学手法を利用し,高性能化することを検討する.また,この過程が迅速かつ簡便に行えるよう,進化分子工学手法の改良を行う.
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: 22259
10.1038/srep22259
http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~funatsu/