近年、ストレス耐性等の有用形質は、多くの場合において、多数の遺伝子により支配されていることが明らかになってきた。しかし、従来の遺伝子工学技術を基盤にした菌株育種技術では一度に操作できる遺伝子の数はごく少数に限られており、大規模なゲノム育種は困難であった。そこで本研究課題では、基礎から産業応用まで広く用いられている出芽酵母においてゲノム工学技術を開発すること、つまりは染色体を自在に操作する技術の開発を開発することを目的とした。 最終年度までに、新奇ゲノム編集技術CRISPR/Cas9を従来の染色体分断技術PCS法に取り入れることにより大幅な染色体分断効率の向上を達成したCRISPR-PCS法の開発に成功していた。これにより一度の操作で4か所を分断することが可能となった。この成果についての論文を投稿中であったが、最終年度に査読付き国際誌に受理された。 最終年度では、CRISPR-PCS法を他の染色体操作に応用することを試みた。試行錯誤の結果、最終的には染色体任意領域の欠失、重複、置換、転座、融合、環状化などの様々な染色体操作が高効率で行えるようになった。特に、染色体の欠失についてはゲノム上の四つの任意に選んだ領域を一度の操作で一挙に欠失させることに成功した。また、昨年度までは複数領域を対象に染色体操作を行った場合に、目的の染色体改変が行われた菌株の割合が50%以下にとどまるという問題があったが、染色体操作を行う際に導入するDNA断片を改変し、非特異的な部位への染色体挿入が起こらないようにしたところ、複数個所の染色体操作においても完全に100%の頻度で目的の菌株が得られるようになった。 本研究を通じて、出芽酵母において大規模なゲノム操作を可能にする染色体工学技術の基盤は確立できたと考えているので、今後は開発した技術を菌株育種へと応用展開していくことを考えている。
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