「酸化発酵」は、多彩な糖類を細胞外で強力に酸化して、ほぼすべての酸化生成物を培地中に蓄積する酢酸菌に特徴的な代謝系である。本代謝系は次世代発酵技術の基盤としても魅力ある反応系であり、その理解が求められている。最近、自然発生的変異株が単離され、酸化発酵に追随して、蓄積した生成物を細胞内に取り込み・資化・再増殖する現象が確認された。このことは、酢酸菌は酸化生成物の資化能を有しているにも関わらず、潜在的に抑制して酸化発酵を進めていることを示し、生理学的に興味深い。本研究課題は、酸化発酵を利用する上で新たな課題として見出された「追随して進行する細胞内代謝」の分子機構を解明して酸化発酵の理解を深め、その知見を新規発酵技術に展開することを目指している。平成28年度は、以下の研究を行い下記のような成果を得た。
1. 自然発生変異株の変異箇所の同定と関連分子の生化学的解析 昨年度、特定に成功した希少糖5-ケトグルコン酸(5KGA)の細胞内輸送に関わる輸送体遺伝子について、塩基配列を調査して比較解析を行った。ゲノム公開株と比較すると輸送体遺伝子に数塩基のミスマッチが確認されたが、自然発生変異株間では完全に一致していた。このことから、「酸化発酵に追随して進行する細胞内代謝」は輸送体遺伝子の変異に起因するものでないと判断した。現在、転写調節因子の変異を視野に入れて、変異箇所の同定に取り組んでいる。 一方、5KGA輸送体遺伝子について、破壊株を用いて基質の取り込み能を調査した。本分子は5KGAだけでなくグルコン酸に対する取り込み能を示したが、2-ケトグルコン酸(2KGA)は全く取り込むことがなかった。以上のことから、本分子は5KGAおよびグルコン酸の取り込みに機能していることを明らかにした。
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