枯草菌の胞子は、ペプチドグリカンや胞子コートタンパク質を主成分とする多層構造から成り、最外は多糖類層であることがわかっている。本研究は、枯草菌の胞子の最外層構造とその合成過程の解明を目的とする。H27年度は、胞子多糖類合成遺伝子spsMの活性化機構の解明と胞子多糖類合成に関わるspsM以外の遺伝子の検索を行った。これまでの研究から、spsMは、栄養増殖細胞の染色体では2つに分断され不活性化されているが、胞子形成期になるとSPβファージ由来のDNA組換え酵素の作用により、1つの遺伝子に再構築されることが示唆されていた。H27年度の研究によりin vitroにおいてspsM遺伝子再編成を証明することができた。また、spsMは胞子形成期母細胞特異的な転写因子のGerEによって正に転写が制御されることが明らかとなった。そこで、GerEによって正に制御される遺伝子群の欠損株を作製し、胞子多糖類合成に関与するかを調べた結果、spsABCDEFGIJKL、cgeAB、およびcgeCDEオペロンが胞子最外層多糖類合成に関与することがわかった。各遺伝子にコードされるアミノ酸配列情報から、spsA、spsB、cgeB、cgeDが多糖類合成のための糖転移酵素をコードし、その他の遺伝子は主に多糖類の基質の生合成に関与することが推測された。興味深いことに、cgeAはBacillus属細菌でのみ見られるユニークな遺伝子であり、胞子多糖類層の形成に必須であった。CgeAタンパク質は胞子表層に局在するが、その局在には胞子のタンパク質表層に存在するCotX、CotY、およびCotZの3つのコートタンパク質が特に重要であることが示唆された。また、cgeCDEは多糖類合成には必須ではないが、cgeD変異体胞子では多糖類鎖長が異常に長くなることから、CgeDは多糖類伸長の制御を行う可能性が示唆された。
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