研究課題
真核生物に広く保存されているTRP(Transient receptor potential)チャネルの原型であり、酵母のゲノムDNAに保存されている酵母TRPチャネルの脂質分子による活性調節機構の全容の解明をめざす。これまでの研究により、酵母TRPチャネルは液胞膜に発現し、K+、 Na+、Ca2+の透過活性を示し、また、細胞質のCa2+と還元剤によって活性化することを電気生理学的手法により見出している。さらに、酵母を高浸透圧ストレスに晒すと数十秒以内にTRPチャネルが活性化して液胞内から細胞質へCa2+を放出し、この高浸透圧応答がPI(3,5)P2合成能欠損株では見られないことを国外の研究グループが報告している。しかし、PI(3,5)P2が高浸透圧応答に必要であるか、PI(3)Pの蓄積によって高浸透圧応答が抑制されるのか未解明であった。そのため、ホスホイノシトールリン酸類のリン酸化酵素もしくは脱リン酸化酵素の遺伝子欠損株を用いて酵母の高浸透圧応答を検討したところ、PI(3)Pの脱リン酸化に関わりPI(3)Pの蓄積が推察されるsac1欠損株を用いた高浸透圧応答実験において液胞内から細胞質へのCa2+の流入は確認されなかった。また、PI(3)P処理した酵母TRPチャネルを電気生理学的手法を用いて活性測定したとことろ、陽イオン電流が大幅に減少した。以上より、酵母TRPチャネルはPI(3)Pによって活性が抑制されることを見出した。次に、高浸透圧ストレスに晒された酵母が液胞膜に発現する酵母TRPチャネルを活性化する分子機構を明らかにするために、細胞骨格阻害剤で処理したところ高浸透圧応答性の細胞質へのCa2+放出が消失した。以上より、高浸透圧ストレスは細胞骨格を介して酵母TRPチャネルを活性化していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
酵母TRPチャネルの活性制御にPI(3)Pが関わっていることを明らかにした。さらに、高浸透圧応答機構に細胞骨格分子が関わっており、アクチン線維ではなく微小管が関わっていることが示された。さらに、本研究を進めるにあたって酵母の新規Ca2+輸送体の存在を見出だすことに成功し、本輸送体分子が酵母の高浸透圧ストレス、小胞体ストレス、酸化ストレス、熱ストレスなどの様々なストレス耐性に関わっていることが推察されている。さらに、酵母の細胞壁合成への関与も示唆されている。
酵母TRPチャネルに高浸透圧ストレスのシグナル伝達を行なっている微小管が直接TRPチャネルと相互作用してシグナル伝達を行なっているのか、もしくは微小管が液胞膜と相互作用して膜を介してシグナル伝達を行なっているのか不明である。今後はタンパク質の相互作用解析や微小管分子と液胞膜の脂質分子の結合などの解析を行なってシグナル伝達機構の詳細を明らかにする予定である。TRPチャネルは比較的長いN末端、C末端の細胞質露出領域を持っているため、それらの領域のタンパク質を発現精製し、分子間相互作用の解析装置を用いて解析を行う。さらに本研究において見出した新規Ca2+輸送体分子の機能解析のために、輸送体分子の輸送活性、イオン選択性、局在解析、生理的役割の解析を進める予定である。輸送活性、イオン選択性の解析はパッチクランプ法や二電極膜電位固定法などの電気生理学的手法を用いる。さらにCa2+指示薬や蛍光タンパク質も活用して本解析を行う。さらに局在解析は蛍光タンパク質との融合タンパク質を共焦点顕微鏡観察によって明らかにする。
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用学であり、平成29年度の研究遂行に仕様する予定である。また、新規Ca2+輸送体の変異株の表現型解析において予想外の結果が得られたため、前年度に予定していた遺伝子変異株の作成を次年度に行うこととなった。前年度に予定していた遺伝子工学試薬の一部を次年度に購入することとした。
電気生理実験を行うため、ガラス器具、プラスチック器具、電子部品を消耗品として購入する予定である。電気生理実験に用いる細胞の培養・調整のために酵素試薬、培地、一般化学試薬を購入する。遺伝子破壊株の作成やプラスミドベクターの構築のために遺伝子工学試薬を購入する。本研究成果は国内外の学会に積極的に参加して発表するため、旅費として計上する。さらに国際紙への論文投稿をめざし、英文校正と論文投稿料として使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (10件)
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: 81 ページ: 249-255
10.1080/09168451.2016.1246174.