研究課題/領域番号 |
15K18679
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
宮永 顕正 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (10623126)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 微生物酵素 / 結晶構造解析 / タンパク質間相互作用 / クロスリンク / ポリケタイド合成酵素 |
研究実績の概要 |
マクロラクタム抗生物質ビセニスタチンの生合成において、アシル基転移酵素VinKは、ジペプチジル基をアシルキャリアタンパク質 (ACP) であるVinLから、ポリケタイド合成酵素上のACPドメイン (VinP1LdACP) へと受け渡す反応を触媒する。このアシル基転移反応において、VinKはジペプチジル基部位に加えて、VinLとVinP1LdACPの2種類のACPをタンパク質間相互作用により認識していると考えられる。 本年度はVinKのACP認識機構を明らかにすべく、VinKとACPの複合体の結晶構造解析を試みた。まず、VinKとACPを混合して結晶化を行ったが、共結晶を得ることはできなかった。VinKとこれらのACP間の相互作用が一時的で弱く、安定な複合体を形成しないことが原因と考えられた。そこで、クロスリンク反応により、VinKとVinL間、VinKとVinP1LdACP間がそれぞれ共有結合でつながった安定な複合体を調製した。次に、これらの結晶化を行った結果、VinK-VinL複合体の結晶が得られたので、放射光施設にてX線回折データを収集し、VinK-VinL複合体のX線結晶構造を決定した。決定した複合体結晶構造において、VinKのArg153、Met206、Arg299の3つのアミノ酸残基が静電的相互作用と疎水的相互作用によりVinLを認識していた。これらの3つの残基を変異させ、等温滴定型カロリメトリー測定を行ったところ、いずれの変異体においてもVinLとの結合親和性が顕著に減少したことから、決定した複合体結晶構造の妥当性が裏付けられた。また、これらの変異体ではアシル基転移活性も減少したことから、タンパク質間相互作用とアシル基転移活性は相関していることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的であるVinK-VinL複合体の結晶構造解析に成功し、VinKとVinL間のタンパク質間相互作用を明らかにすることができたため。本研究成果はポリケタイド化合物生合成に関わるアシル基転移酵素とACP間のタンパク質間相互作用を原子分解能で明らかにした初めての例であり、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
VinKのジペプチジル基認識機構を明らかにするべく、ジペプチジル体との共結晶化を試みる。また、ジペプチジル基認識に関わると予想されるアミノ酸残基の変異体を作製し、ジペプチジル基転移活性が変化するかを調べる。他のポリケタイド化合物生合成に関わるアシル基転移酵素とACP間のタンパク質間相互作用についても結晶構造解析や変異体解析などの方法により調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
VinKのジペプチジル基認識機構の解析とACP認識機構の解析を同時に進めることを計画していたが、予想以上に早くVinK-VinL複合体の結晶構造解析に成功したため、初年度はACP認識機構の解明に重点を置き、研究を進めた。これに伴って、必要経費についても変更が生じ、その結果として、次年度への研究費繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、結晶構造解析、変異体酵素の作製と解析などに取り組む予定であり、研究費の大半は試薬やキット類など消耗品購入のための物品費に充てる。また、学会への参加と成果報告を予定しており、研究費の一部を旅費に充てる予定である。
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